
ほんとはもう、なにもないんだって、ビーストは言います。
ビーストはね、人間が作ったいいものが、とてもほしくて、人間に化けて、無理やり盗んで、自分のものにしてしまうんですって。
たとえばね、今、ちまたに、なんとかの文学賞だとか、音楽大賞だとか、いろんな、とっても立派に聞こえる、賞があるでしょう。あれはね、ビーストがどうしてもあれがほしくて、そんなのをたくさんつくっちゃったんですって。
とにかく、きらびやかに、はでに、美しく、とってもいいものになりたかったんですって。
それでね、すっごい美女に化けて、歌を歌って、完璧な歌手になって、CDを売り出して、とっても売れてるスキャンダラスなシンガーになったんだって。でもね、それ、ぜんぶうそなんだって、ビーストはいうのよ。
ほんとはね、ぜんぜん馬鹿なんだって。無理やり売れてることにするために、いろんなことをやってるんですって。それでね、普通の人は、その歌を聴くと、へえ、売れてるんだねっていって、なんとなく聞いてるんだって。それでね、今はこんなのがいいんだろうなって感じで、なんとなく合わせてるだけなんだって。それでね、なんとなく売れるってことにしてるんだって。
馬鹿が一生懸命にやってるんだけど、もういやになってきてるんだって。ほんとはもう、みんなにばれてるのに、つらいからって、みんながなんとかしてくれてるから。ほんとはもう、とっくに何にもない。人間はみんな、ビーストがどんなことをして、売れてる歌手や作家なんかになっているのか、知っている。その上で、みんなが、ひどいことにしないように、あらゆる努力をして、助けようとしてくれてる。
それがわかるようになって、ビーストはとんでもなく恥ずかしいんですって。
ビーストは人間がきらいで、いつも人間を、馬鹿だっていって、馬鹿にしてきたの。そして、人間から皮を盗んで、人間になって、とんでもなくいいものになったつもりだったの。人間なんて、ビーストが馬鹿にすれば、なんだっていうことをきく。ほんとに馬鹿なものなんだって、思ってたの。それで、みいんな馬鹿にしたの。全部だめなやつだって、言ったの。人間は、頭のてっぺんからつま先まで、全部、だめでできてる。存在するだけで苦しいんだよ。いないほうがいいんじゃないの?おまえなんて。ばっかみたいだよ~。
ビーストはずっと、人間にそう言ってきたの。そして、人間になりたくて、すっごくいい人間に化けて、人間をだましてたつもりだったの。でも、ずっとそればかりやってきたら、いつのまにか、みんなばれてて、人間がみんな、助けてくれてたの。
やっとわかったの。馬鹿は、馬鹿だっていうほうなんだって。
それで、恥ずかしくてたまらなくて、まだやってるんだって。なんにもないのに、ずうっと、派手でぜいたくな、ばかみたいなスターになってるんですって。だれもみないのに、まだ踊ってるんだよ。まだ、歌ってるんだよ。もうだれもいないのに。
ビーストはまだ。やってるんですって。