フレデリック・レイトン
アダムとイヴは、カインとアベルの二人の息子を産んだ。カインは長じて土を耕し、アベルは羊を飼った。ある日カインとアベルは主に供え物をしたが、主はアベルの供え物をとって、カインのものをとらなかった。そこでカインはそれを恨み、アベルを野原に呼んで、それを殺した。
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人類最初の殺人と言われる神話です。このように、人が人を殺す理由は、たいていが嫉妬でした。人間は自分がつらかったのです。自分の中から自分を見ると、なんと愚かなのだろうと感じるからです。馬鹿なことばかりやり、恥ずかしい失敗ばかりする。そんな自分が四六時中自分と一緒にいるのだ。それがつらくて、自分ではないというだけで他者に嫉妬し、時にはそれを殺してしまう。カインとアベルに、それほど強い差はない。ただ、カインの方が先に手を出しただけなのだ。自分がつらいものは、必ず誰かに殺意を抱く。その実行を先んじたのがカインだったのです。逃げることはできない真実を抱いて、それからカインは迷走し始めるのです。