世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

交渉⑮

2017-11-04 04:14:43 | 風紋


アシメックとゴリンゴが、広場にさしかかるところまで、一緒に歩いてきたときだった。突然、村の中から叫び声が起こった。

「どろぼうだ! オラブが出たぞ!」

反射的に、アシメックは一歩前に出て、アロンダの腕をつかんで引き戻し、自分の後ろに下がらせた。そして彼女を守るように仁王立ちになりながら、叫んだ。

「つかまえろ!!」

村の中で騒ぎが起こった。一軒の家の向こうで、何人かが追いかけあっている気配が見えた。

「このやろう! 米を狙ってきたな!!」
「おれんところの壺がない!!」
「逃がすな!」

何かが割れる音が聞こえた。アシメックは腰に下げてあるナイフに手をかけた。何と間が悪いことだ。よりによってヤルスベとの交渉の日に出てくるとは。ほかの日ならば、もっとうまくやってやれたものを。

天幕の一つが勢いよくたおれ、そこから弾け飛ぶように、オラブがアシメックの前に飛び出してきた。オラブは小さな壺を胸に抱えていた。アシメックは叫んだ。

「やめるんだ! オラブ!」

オラブは小さな男だった。髪もひげも伸び放題に伸びている。異様に痩せて、目がぎらぎらとしていた。ろくな暮らしをしていないのだろう。オラブはアシメックの顔を見ると、突然青ざめて、くるりときびすを返し、一目散で逃げ出した。逃げ足だけは、だれよりも速いのだ。




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