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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

とむらい⑤

2017-09-11 04:13:14 | 風紋


アシメックは手の中のナイフを見た。それは鉄製の立派なものだった。家の中の薄闇の中でもきれいに光っている。アシメックはその刃を指でなぞりながら思った。そろそろ稲舟を出さねばならない。オロソ沼の米も実り始めているだろう。アシメックは、村の宝蔵にしまってある村の宝のことを思った。そこには一つ、彼が常に思いをかけている問題があった。

その時、後ろで妹が悲鳴を上げたので、アシメックの思考は中断された。振り向くと、妹が入り口のところで尻もちをついていた。何かに驚いたらしい。アシメックは声をかけた。

「どうした、何があった」

「あにや、だれかいるの」

アシメックが入り口のところに来て、妹が指さすところを見ると、そこにサリクがいた。入り口から二、三歩ほど離れたところの地面に膝を抱いて座り、何かが欲しそうな目つきでアシメックを見つめている。

アシメックはほほ笑んだ。ずっとついてきていたのか。何かを言ってやらねばなるまい。そこでアシメックはサリクに言った。

「そろそろ稲舟を出さねばならない。おまえはイタカの野に行って、コクリの花を見て来い。花が咲いていたら、稲舟を出そう」

それを聞くと、サリクの顔はぱっと明るくなった。返事もせずに飛び上がるように立ち上がり、そのままかけていった。花を見に行ったのだろう。

アシメックはほほ笑んだ。かわいい奴だ。なんとかしてやらねばなるまい。





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