その昔
ぐるぐる ぐるぐる
うずまいた
おおきな おおきな
しっぽが あった
(うふふふふ
ねごとで わらいながら
まどろんでいるのは だれ?
なんの 夢をみてる?)
世界は むじんぞうの
ひかりの 海
無数の星は
とけたバターのような
あたたかい気流の中を
ふんわり ふんわり 泳いでいたが
ぐるぐるの しっぽが
わけもわからず
いらいらしているのに
だあれも 気づかなかった
(ああ せなかがむずがゆい
からだのなかが うずうずする
いたい いたい びりびりするよう
おれはいったい 何なのだろう?
どうして ここに いるんだろう?
だれもめざめていないのか?
だれも気づいていないのか?
さみしい さみしいよう)
しっぽは ちぎれた 主をさがしている
じぶんは いったい 何のしっぽなのか
いつ どうして ちぎれてしまったのか
だけどなにも わからない
さけんでも もとめても
なにも こたえは かえってこない
(ああ
だれも こたえてくれないのか
だれも ふりむいてくれないのか
ようし それならおれは
ここにある 星をぜんぶ
食いつくしてやろう)
言うがはやいか
しっぽは 星を がりがりと食い出した
口も歯もない しっぽなのに
ふしぎなことだが
しっぽはぐるぐる しっぽをふりまわして
星という星をからめとり はきあつめ
ぼりぼり ぼりぼり
食いだした
星は たまったものじゃない
あわててはっきり目をさまし
月のところへ 助けをもとめた
(お月さま しっぽのやつが
わたしたちみんなを
食べようとするんです!
たすけてください!)
すると月は うっすらと光のベールを広げ
星々をかくしてしまった
怒ったしっぽは 月にいどみかかり
ぐるぐるしっぽで月をまきとって
あんぐりと飲みこんでしまった
おどろいた星々は
こんどは太陽のところへにげこんだ
(お日さま しっぽのやつが
わたしたちみんなを
食べようとするんです!
たすけてください!)
太陽は ぎらぎらと燃えて
そらに光のかべをはり
星々をかくしてしまった
怒ったしっぽは 太陽にいどみかかり
ぐるぐるしっぽで
太陽をまきとろうとした
だが太陽は しっぽには熱すぎて
大きすぎて まきとろうにもまきとれない
太陽は 燃えに燃えて
ほのおでしっぽをからめとり
熱で ぷうぷう ふくらました
しっぽは とうとう
ぱあんと 裂けてしまった
するとどうだ
裂けたしっぽの中から
月がつるんと飛び出したかと思うと
食べられた星々のかけらが
雨のようにあふれだした
月と太陽は しまったと思ったが
もう遅い
くるくるくるくる おどりながら
星のかけらは
宇宙(そら)の下の方に みんな落ちていった
(うふ うふふふ
なんだ? なんだ?
むずがゆいぞ?)
宇宙(そら)の 底のほうで
まどろんでいた ちきゅうは
夢の途中で 目をさました
(うふふふ うふふふ
なんだ? なんだ?)
星のかけらは どんどん どんどん
ちきゅうにしみこんでいく
ちきゅうは くすぐったくてしょうがない
(あははは あははは)
とうとう 声をあげて わらいだした
(おや? なんかへんだぞ?
ほほほほ? ほら なにか
でてくるぞ?
にょきにょき むずむず
ぴちぴち きゃあきゃあ
あは あははは!
くすぐったいよう
……やあ!
みて! みて!
うまれたぞ うまれたぞう!)
ちきゅうの うえに
ぷつぷつ ぷつぷつ
あかんぼうが うまれてきた
ちいさい ちいさい
星の こどもが
たくさんの いのちのたねが
それはそれは いっぱい
あわのように
声をあげて うまれてきた
おぎゃあ おぎゃああ
すると ちきゅうの中で
むくむく むくむく
なにかが あふれだして
とまらなくなった
きらきら きらきらの
しあわせが 光のように
みちてきて
ちきゅうは たまらなくなって
さけびだした
(ほら みんな!
みて! みて!
かわいいよ かわいいよう!)
ちきゅうの こえは
そらを ひゃくまんかいも こだまして
せんまんかいも ひびきわたった
最初に 月がやってきた
月はうらやましくって しょうがない
そこで夜をつくって ずっとちきゅうを
見ていることにした
かわいい かわいい と ささやきながら
次に 太陽が やってきた
太陽はうらやましくって しょうがない
そこで昼をつくって ずっとちきゅうを
見ていることにした
ほほう ほほう と ほほえみながら
最後に 星々が やってきた
星々はうらやましくって しょうがない
そこで月にたのみこんで
夜空にならんで ずっとちきゅうを
見ていることにした
いいなあ いいなあ と 歌いながら
かわいい子よ これが
しっぽが 始まりの 物語
(うふふふふ
まどろんでいるのは だれ?
夢をみているのは だれ?)
(平成15年、「種野思束詩集・種まく人」より。
日記帳に清書してあった詩群の中の一つ)