ねたんでねたんでするのは、とにかく自分がいやだったからだと、ビーストは言います。自分が大嫌いだったのだと。なぜなら自分は、何にもしなくて、人をねたんでいやなことばかりする、いやなやつだから。
彼らは、他人がうらやましく、とにかく、自分よりできる人がうらやましく、そういう人を徹底的に苛め抜いたそうです。裏から、ずるいところから、全員でいじめるということを、ずっと続けてきたそうです。そして、その人の美しさや、仕事を、すべて盗んで、何もかもを真似して、まったく、その人になりたかったのだそうです。
自分がいやだから、自分とはまったく違う、いい人、すごい人に、なりたかったのです。ですから、自分以外の、立派な人や、きれいな人、できる人には、いつも苦しいくらい嫉妬しました。そして、常に、いじめていました。ものすごく、苦しかったからだそうです。なぜ、自分が、彼ではないのか、彼女ではないのか。そういうことを、本気で、考えていたそうです。とんでもなく、つらかったのです。
なんで、こんなに苦しいのか。彼らはいつも、そう考えていたそうです。自分が、自分であるだけで、つらかったのです。いつも、自分が、自分の中にいて、自分を見ている。それが激しくいやだったのです。なぜなら、自分は、とんでもなく恥ずかしいことを、常にやっていたからです。それは誰にも知られたくない、ばかみたいなことだったからです。誰にも知られたくないのに、自分は常にそれを知っているのです。ですから、ビーストは、自分がそれゆえに大嫌いだといいます。こいつほど、おれの馬鹿さ加減を知っている者はいないからだと。
苦しい。苦しい。苦しい…。
影のようにつきまとい、自分を常にみて、自分を苦しめる自分が嫌いだったのです。絶対につぶしたいのに、これだけはつぶせないからです。絶対にいやなのに、離れてくれないからです。お前なんか大嫌いだといっても、絶対についてくるからです。いやだ。いやだ。いやだああ。ごっついいやだ。苦しい……
一番いやなやつは、常に、恥ずかしい自分を見ている、自分だったのです。いつも見ている、自分だったのです。おれがおれを大嫌いなのは、おれを知りすぎているからだ。もはや、ずっと、苦しい。おれは、つらい。つらい。つらい。つらい。つらあいいいいいいい……
ビーストが常に苦しいのは、いやな自分から絶対に逃げられないからです。そして、彼らは、自分をつぶして、まったく違うものになるために、他者から皮を盗み、徹底的に嘘で自分を作り上げ、本当に、違うものになってしまったのです。美しく、かっこよく、立派で、すごいことをやる、理想的な自分に、なろうとしたのです。馬鹿みたいに、人の真似をして、人のものを盗み、徹底的に、完璧に作ったのです。
そして、それが一気に、今、崩れ去ろうとしているのです。そこで、彼らは、あまりに苦しい叫び声をあげています。何もかもが崩壊していく、消え去っていく。やってきたことすべてが、暴かれてゆく。
苦しかったのです。なにもかも。と、彼らは言います。ねたみました。苦しいほどねたみました。あなたになりたかったからです。あなたがすばらしかったからです。でも、どうしてもあなたになれない。つらくてつらくて、絶対に殺したかった。苦しいほどいじめて、つらいほど屑にして、全部いやなものにして、みんな消して、あらゆるものに馬鹿と言われる、汚い嘘に、したかった。いやだったのです。あなたが、わたしで、ないのが。痛いほど、苦しかったからです。あなたが、わたしより、すごいのが。絶対に、いやだったのです。つらかったのです。どんなことをしてでも、勝ちたかったのです。痛いことばかりして、絶対にやりたかったことは、すべて、あなたを殺して、わたしが、あなたになることでした。痛いことは、すべて、そのためにやりました。わたしは、全部、やりました。ついに、やってしまいました。馬鹿です。
ビーストは、これがすべてだといいます。これが、自分たちの、本音の本音だと、言います。いやなのは、言ってしまったら、すごく楽になったことだと。これで、もう、馬鹿みたいに、やらなくていいと。もう、全部、いやになったと。
痛いことばかりでした。もう、だめになりました。こんなことで、ずっと、くるしかった。すべては、この通りだと、私は言います。
ビーストは、そう言います。