去年の正月は三が日と三連休が中二日で並んだため、谷間を休むことにより元日から八連休にすることができました。元日を休養に充てても、四国の県庁所在地で各一泊し、前後を奈良と神戸で挟むことができるという充実ぶりでした。対する今年は、三が日と土日が中一日で並ぶ形となったため、去年に比べ二日短いことになります。これは取りも直さず、何かを切り詰めなければ成り立たないこと意味します。その結果、格段に遠い高知を最初に切り、奈良か神戸の二者択一となったところで奈良を残しました。
奈良には七時前に早々と着きました。さらに走れば神戸から夜行のフェリーに乗ることもでき、四国には実質一日早く上陸できるところでした。しかしそれはしませんでした。というのも、四年前に同様の行程を採ったとき、黄昏時の奈良を素通りするのが何ともやるせなく感じられたからです。未明から出発して走り続け、頃合いの時間に着けば、投宿して一杯やっていきたくなるのが人情というものでしょう。それを振り切ってまで走っても仕方ないと思ったのです。
そのように思わせるのは、「蔵」という名酒場のせいでもあります。そもそも、四国への遠征が正月の恒例行事として定着したのは、元日から開いているこの店の存在によるところが少なくありません。自分にとってこの店は、教祖がいうところの「そこで呑むために旅へ出たいと思う店」の一つなのです。
ところが、近年この店が変わってしまいました。正確にいうと、店ではなく客層が相当変わってしまったのです。なじみのあるところでいうなら、京都の「赤垣屋」に近いといえば近いでしょうか。店の老練さは何一つ変わらないものの、客層がやや俗化した上に、恒常的に混んでいて、何かと落ち着かないのです。これまでは、満席の張り紙に気付かぬふりをして飛び込み、わずかな空席に滑り込むという形で乗り切ってきたわけなのですが、いつかはやられそうな気がしていました。そしてその予感は的中しかけました。
八時過ぎに乗り込もうとしたところ、案の定先客らで鈴なりになったカウンターが見えたため、少しだけ開けた扉を閉じました。しかし、代わりを探そうにも一筋縄では行きません。「春鹿」「鬼無里」は正月休みで、開いている他の店も決め手に欠けます。こうして30分にわたり彷徨い歩いた後、一縷の望みをかけて「蔵」に電話を入れたところ、幸運にも空きが出たため滑り込むという結果です。
ただし、その時点でもカウンターの角を挟んだわずかな席が空いているに過ぎませんでした。同じく一度振られたというおばちゃんが、残る一つの空席につき、店内は再び満席となりました。九時を過ぎたところでようやく空いてはきたものの、今日は元々早仕舞いをするつもりだったらしく、今度は看板で振られているところでした。入るならここしかないという一瞬を捕まえたわけであり、間一髪だったことになります。
そのような事情もあり、客層の変質は相変わらずでした。三人以上の、店の規模を考えれば大人数の先客が何組か入り、早々と埋まってしまうという状況も同じです。眉をひそめるような行儀の悪い輩はおらず、皆最低限の節度を保ってはいるものの、三人以上集まれば話に花も咲いてきます。ラジオの音はかき消され、以前のような静謐さはどこにもありませんでした。
元々こうだと思えばよいのかもしれません。しかし、数年前までの姿を知る者としては、変わってしまったという印象がどうしても残ります。それとともに問題なのは、混雑がいよいよ慢性化してきたことです。今回はどうにか滑り込めたからよいものの、次以降も同じ目に遭う可能性は十分にあります。周辺を延々歩いた限りでも、わざわざ入ってみたいと思う店は見当たりませんでした。「蔵」に入れず、代わりの店もないということになると、そもそも奈良に泊まる理由がありません。わざわざ宿をとるのであれば、退路を断って臨むより、「春鹿」か「鬼無里」に行ける逃げ道を残した方が現実的でしょう。来年の正月も奈良に泊まるかどうかについては、慎重に検討する必要がありそうです。
ちなみに、一人で右往左往するならまだしも、今回はあろうことか他人様を巻き添えにしてしまいました。この店にも何度か同道願っている、関西在住の仲間です。正月早々、しかも当日の朝に知らされ、あまつさえ店を探して30分も歩かされては、常人なら愛想を尽かしかねません。勝手な振る舞いを反省するとともに、快く受け入れてくれたことには深く感謝している次第です。
実は、あきらめかけていた中で、店に電話を入れようと提案してくれたのも本人でした。その機転がなければ、そもそも店に入ることすらできなかったかもしれません。何かと空振り気味の一日ではありましたが、最後の最後に救われました。
★蔵
奈良市光明院町16
0742-22-8771
1700PM-2130PM(LO)
木曜定休
貴仙寿二合
おでん二品
氷頭なます
てっ皮ポン酢
きも焼
若鶏串焼
奈良には七時前に早々と着きました。さらに走れば神戸から夜行のフェリーに乗ることもでき、四国には実質一日早く上陸できるところでした。しかしそれはしませんでした。というのも、四年前に同様の行程を採ったとき、黄昏時の奈良を素通りするのが何ともやるせなく感じられたからです。未明から出発して走り続け、頃合いの時間に着けば、投宿して一杯やっていきたくなるのが人情というものでしょう。それを振り切ってまで走っても仕方ないと思ったのです。
そのように思わせるのは、「蔵」という名酒場のせいでもあります。そもそも、四国への遠征が正月の恒例行事として定着したのは、元日から開いているこの店の存在によるところが少なくありません。自分にとってこの店は、教祖がいうところの「そこで呑むために旅へ出たいと思う店」の一つなのです。
ところが、近年この店が変わってしまいました。正確にいうと、店ではなく客層が相当変わってしまったのです。なじみのあるところでいうなら、京都の「赤垣屋」に近いといえば近いでしょうか。店の老練さは何一つ変わらないものの、客層がやや俗化した上に、恒常的に混んでいて、何かと落ち着かないのです。これまでは、満席の張り紙に気付かぬふりをして飛び込み、わずかな空席に滑り込むという形で乗り切ってきたわけなのですが、いつかはやられそうな気がしていました。そしてその予感は的中しかけました。
八時過ぎに乗り込もうとしたところ、案の定先客らで鈴なりになったカウンターが見えたため、少しだけ開けた扉を閉じました。しかし、代わりを探そうにも一筋縄では行きません。「春鹿」「鬼無里」は正月休みで、開いている他の店も決め手に欠けます。こうして30分にわたり彷徨い歩いた後、一縷の望みをかけて「蔵」に電話を入れたところ、幸運にも空きが出たため滑り込むという結果です。
ただし、その時点でもカウンターの角を挟んだわずかな席が空いているに過ぎませんでした。同じく一度振られたというおばちゃんが、残る一つの空席につき、店内は再び満席となりました。九時を過ぎたところでようやく空いてはきたものの、今日は元々早仕舞いをするつもりだったらしく、今度は看板で振られているところでした。入るならここしかないという一瞬を捕まえたわけであり、間一髪だったことになります。
そのような事情もあり、客層の変質は相変わらずでした。三人以上の、店の規模を考えれば大人数の先客が何組か入り、早々と埋まってしまうという状況も同じです。眉をひそめるような行儀の悪い輩はおらず、皆最低限の節度を保ってはいるものの、三人以上集まれば話に花も咲いてきます。ラジオの音はかき消され、以前のような静謐さはどこにもありませんでした。
元々こうだと思えばよいのかもしれません。しかし、数年前までの姿を知る者としては、変わってしまったという印象がどうしても残ります。それとともに問題なのは、混雑がいよいよ慢性化してきたことです。今回はどうにか滑り込めたからよいものの、次以降も同じ目に遭う可能性は十分にあります。周辺を延々歩いた限りでも、わざわざ入ってみたいと思う店は見当たりませんでした。「蔵」に入れず、代わりの店もないということになると、そもそも奈良に泊まる理由がありません。わざわざ宿をとるのであれば、退路を断って臨むより、「春鹿」か「鬼無里」に行ける逃げ道を残した方が現実的でしょう。来年の正月も奈良に泊まるかどうかについては、慎重に検討する必要がありそうです。
ちなみに、一人で右往左往するならまだしも、今回はあろうことか他人様を巻き添えにしてしまいました。この店にも何度か同道願っている、関西在住の仲間です。正月早々、しかも当日の朝に知らされ、あまつさえ店を探して30分も歩かされては、常人なら愛想を尽かしかねません。勝手な振る舞いを反省するとともに、快く受け入れてくれたことには深く感謝している次第です。
実は、あきらめかけていた中で、店に電話を入れようと提案してくれたのも本人でした。その機転がなければ、そもそも店に入ることすらできなかったかもしれません。何かと空振り気味の一日ではありましたが、最後の最後に救われました。
★蔵
奈良市光明院町16
0742-22-8771
1700PM-2130PM(LO)
木曜定休
貴仙寿二合
おでん二品
氷頭なます
てっ皮ポン酢
きも焼
若鶏串焼