日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

この季節の楽しみ 2015(12)

2015-07-11 21:43:54 | 野球
六月の後半から三週間ほど細々と戦われた後、一挙に本格化するのが高校野球の地方大会です。開幕から21日目を迎えた昨日は岩手、山形、埼玉、千葉、新潟、三重、広島、長崎の8大会が開幕し、中断していた東西東京の両大会も再会するなど、19大会106試合の開催で、試合数が今季初めて100を超えました。翌週の三連休にかけては、連日数百試合が戦われる最盛期となります。
これだけの試合数にもなると、試合結果を北から南へたどっていくにも何かと限界が出てくるものです。本日からはこのblog独自の視点に基づき、いくつかの話題に分けて振り返ります。

遠距離対決
遠く離れた町のチーム同士による対戦は、広大県ならではの楽しみの一つであり、高校野球の真髄として自分が重ねて強調する「地域性」が最も端的に表れる局面でもあります。
この手の試合の出現頻度は、県土の広さだけではなく、町が適度に分散しているかどうか、直線状の移動が可能かどうか、さらには抽選の方法など、様々な要因に依存します。この点、条件をことごとく満たしている県の一つが青森です。全43県の中で7番目の面積もさることながら、県土が津軽、下北、三八上北に三分され、津軽はさらに東青、中南、北五、西の四地区に分けられて、各地域に偏りなく町が散らばっており、しかも下北、津軽と半島が二つあるため、地域によっては大迂回を強いられる場面も出てきます。そのような地勢に応じ、球場は弘前、青森、八戸、六戸と分散しており、しかも抽選は球場ごとにブロック化され、その際各校の属する地域は一切考慮されません。その結果、遠隔地のチーム同士が初戦でいきなり対戦したり、最寄りの球場を素通りして遠方にわざわざ出向くという場面が頻繁に出現するわけです。さらには序盤ほど試合の間隔が短く、くじ運によっては四日で三試合戦わなければならないという過密日程でもあります。
特に、下北と津軽のチームの対戦は遠距離になりやすく、この日の試合でいうなら東奥義塾対大間、弘前実対田名部などはまさにそうでした。三戸対鰺ヶ沢も、県土を南東から北西へ対角線で横切る、直線距離でも100km離れたチーム同士の一戦です。これほど極端ではないにしても、この日は広い県土の東西あるいは南北にまたがる対戦が多く、紙面を眺めるだけでも見応えがあります。唯一同じ町のチーム同士が対戦した弘前南対弘前の一戦も、両校からは遠く離れた八戸で戦われたものです。
上記の通り、組み合わせの妙は県土の広さだけで決まるものではありません。言い換えると、広大ながら見所の乏しい県もあるということで、県の面積上位2傑を占める岩手、福島両県にもその理は当てはまります。ともに新幹線と高速道路が県土の南北を貫き、その沿線に県都を含む主要都市が集中していて、県土の広がりが乏しいばかりか、移動にもさほどの時間を要しない結果、遠隔地のチーム同士の対戦が出現しにくいのです。とはいえ、それでも広大県であることには違いなく、特定の組み合わせが出現したときには、青森以上の見応えが出てきます。
その特定の組み合わせは何かといえば、岩手ならば北三陸と県南であり、福島ならば浜通りと南会津または奥会津です。断崖絶壁が屹立する北三陸から北上山地を跨いで、南北に長い県土を縦断すればざっと200kmあり、浜通りから阿武隈山地と奥羽山脈を越え南会津、奥会津に分け入ろうとすれば、ほぼ同じだけの距離を要します。この日の岩手大会では、開催された2試合がいずれもそのような組み合わせであり、福島でも浜通りに南会津という、直線距離でも120km離れたチーム同士の対戦が実現しています。

・離島勢
西日本を中心に散らばる離島勢の存在も、地方大会ならではの楽しみの一つです。上記の「遠距離対決」とほぼ同様の視点ではありますが、地続きと海を隔てているのとでは、当然ながら距離感も全く違ってきます。
北北海道から沖縄まで、離島勢が出場する大会が数ある中でも、見応えにおいて鹿児島大会に比類するものはありません。七つの島から12ものチームが出場するという数の多さはもちろんのこと、それらが北海道をも丸ごと呑み込む広大な海に散らばるという壮大さがたまりません。試合開始から三日目となる本日も、与論、大島北、沖永良部、屋久島、樟南二と五校が登場しており、少なくとも序盤戦は連日のように離島勢が紙面を彩ることになります。
鹿児島の影に隠れがちではありますが、離島といえば長崎もかなりのものです。今季も北松西、上五島、壱岐、五島、上対馬、五島海陽、対馬、壱岐商と8校が出場しており、北松西は開幕直後の第一試合を勝利で飾りました。

大量得点差試合
頂点を本気で目指す強豪から素人の寄せ集め集団まで、数千ものチームで争われる全国大会は国際的に見ても稀だと先日申しました。このように、明らかに実力差のあるチーム同士が戦う結果、ある程度試合数が増えると必ず出現するのが大量得点差試合です。およそ野球の試合と思えない大差の試合結果を眺めつつ、負けた側の悔しさ、無念さに思いを致す判官贔屓の心情も、高校野球の楽しみ方と考えます。
このblogでは「大量得点差」の目安を20点差としています。それだけの歴然とした差がつくと、負けた側はまず例外なく0点、取ったとしても1点、2点がせいぜいだと経験上分かっているからです。逆に、自力で5点10点もぎ取れるチームなら、20点以上の差を付けられることはまずありません。何の根拠もない経験則ではありますが、これが見事なまでに的中するものなのです。この日は福島大会で20点差が出現しており、負けた側は言わずもがなの0点でした。

伝統校
全国のどこへ行っても私立の強化校が幅をきかせる今日ではありますが、それらの新興勢力がどうあがいても及ばないのは伝統と格式でしょう。どこの県に行っても、我が国の教育制度の草創期から受け継がれてきた伝統校があるものです。それらの戦いぶりを追いかけるのは、地方大会ならではの楽しみの一つでもあります。
この日は青森の弘前と福島の安積、さらには鹿児島の甲南と、県下最古の旧制中学を発祥とする伝統校が登場しました。一方、先日紹介した福岡の修猷館は二戦目で散っています。

鳶が鷹を生む
直截には、名選手を生んだ無名校です。毎年紙面にひっそりと現れては消えていく無名校が、実は往年の名選手の母校だったという意外性を楽しみます。
この手の無名校も大別すると二つあります。一つは例年初戦か二戦目で姿を消す正真正銘の無名校であり、もう一つは例年そこそこ健闘し、甲子園出場経験も一度か二度はあるものの、並み居る強豪と肩を並べるまでには至らないところです。この日でいうなら、昭和最後の最多勝投手、日ハム松浦の出身校である船橋法典は前者の代表格です。これに対し、同校を下した志学館は、平成9年の新人王、広島澤崎の出身校であり、選手権にも一度出場してはいるものの、近年は3回戦、4回戦止まりが続いているという点で、後者に属する存在といえます。

よい地名
字面も響きも美しい地名、あるいは一度聞いたら忘れられない個性的な地名に注目します。この日の白眉は茨城大会の潮来ではないでしょうか。山形の谷地も、知る人ぞ知る南東北特有の地名です。

鶯鳴かせたこともある
直截にいうなら古豪の話題です。これまで綴ってきた話題が、このblog特有の屈折した視点からのものだったのに対し、古豪といえば高校野球の定番でもあります。
無名校と同様、古豪も大別するといくつかあります。ざっと挙げれば、草創期から現代まで切れ目なく全国大会に出場しているチーム、私立勢の台頭あるいは指導者の交代により檜舞台から去ったチーム、さらには束の間の光芒を放った伝説のチームといったところでしょうか。
この日の注目は何といっても三沢でしょう。東北勢として戦後初の決勝進出を果たし、松山商を相手に引き分け再試合の熱戦を繰り広げて、高校野球史上に不滅の伝説を残したのがこのチームでした。三沢はその昭和44年を最後に甲子園から遠ざかり、勝った松山商も今世紀に入ってからは鳴かず飛ばずの状況とはいえ、両校の戦績が今もしばしば話題となるのは、伝説の一戦が今なお語り継がれているからでしょう。悪くいえば「一発屋」だった三沢ですが、六年前の選手権では県4強に残った実績もあります。このチームの名を今季あと何回見られるかに注目です。
同じく「一発屋」の部類に属する古豪として四日市が挙げられます。春1回、夏2回の甲子園出場経験は三沢と同様ながら、初出場した昭和30年の選手権で、三重県勢として空前絶後となる全国制覇を果たしたのがこのチームです。さらに特筆すべきは、初戦で敗退した2度目の選手権がなければ、湘南、三池工、前橋育英と並ぶ「選手権無敗」の記録を保持していたということでしょう。ついでにいえば、県下では津に次いて二番目に古い旧制中学を発祥とする伝統校でもあります。過去五年で県4強に1回、8強に2回入るなど、それなりに健闘しているのも特筆すべきところです。
無敗記録といえば、「選手権無敗」以上に多いのが「選抜無敗」で、韮山、飯田長姫改め飯田OIDE長姫、徳島海南改め海部、大宮工、日大桜丘、岩倉、伊野商、観音寺中央と8校が保持しています。その一角である岩倉は、初戦を大勝で飾りました。
印象の強烈さでは三沢に一歩譲るとはいえ、高校野球界に残した足跡の大きさという点では、勝るとも劣らないのが津久見です。九州に紫紺と深紅の優勝旗を両方持ち帰った史上唯一のチームであり、古くは高橋直樹に太田卓司、現代では鉄平とプロを輩出している実績は、古豪と呼ぶにふさわしいものがあります。平成に入ってからは甲子園未出場、今季も昨年の代表校大分を相手に延長戦で惜敗という結果ではありましたが、九州の高校野球を語るとき、今なお欠かすことのできない名門の一つです。
なお、先日紹介した鹿児島玉龍は二戦目にも勝ち、次戦は屋久島と戦います。

・職業校
草創期から高校野球界を牽引してきた職業校といえば、何といっても商業校ですが、世の中には風変わりな職業校が多々あるものです。風変わりなものであればあるほど、その土地の文化と風土を背景にしていることが多く、それが職業校に注目する理由の一つでもあります。
風変わりな職業校といえば、この日の注目は東東京の昭和鉄道です。希少性は必ずしも高くはないものの、青森の名久井農、山形の置賜農など、東北の地名と組み合わせた農業高校にも郷土色が感じられます。

★青森大会1回戦
 弘前実10-2田名部
 弘前工15-0三本木農
 岩木7-3五戸
 名久井農12-4青森明の星
 大湊川内2-18三沢
 弘前4-6x弘前南(延長10回)
 東奥義塾14-1大間
 むつ工5-0六戸
 三戸11-0鰺ヶ沢
 十和田西0-4東奥学園
 黒石商11-4聖ウルスラ
★岩手大会1回戦
 一関二5-4岩泉
 大野11-0岩谷堂
★山形大会1回戦
 置賜農3-7谷地
★福島大会1回戦
 南会津12-1ふたば未来学園
 小名浜・遠野0-20相馬東
★茨城大会2回戦
 取手松陽10-0潮来
★千葉大会1回戦
 志学館8-2船橋法典
★東東京大会1回戦
 日出0-10x岩倉
 昭和鉄道5-5荒川商(延長15回引き分け再試合)
★三重大会1回戦
 四日市南1-3四日市
★福岡大会3回戦
 大牟田7-2修猷館
★長崎大会1回戦
 北松西8-0西彼杵
★大分大会1回戦
 津久見1-2x大分(延長14回)
★鹿児島大会2回戦
 与論1-9加世田
 大島北5-6甲南
 沖永良部1-8x鹿児島工
 鹿児島玉龍1-0隼人工
 屋久島4-3樟南二
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