林安直の雑感

長野市の林写真事務所。
建築写真を中心に、いろいろ撮ってます。

Yの話 錦糸町のキャバレー

2023年12月09日 | 日記


大町市の農家 1979.6

おれとYは、ときどき学校の大ホールに入り込んだ。そこの壇上のピアノを弾くためだ。弾くのは、もちろんY。
リクエストすると、なんでも弾いてくれた。2回目に弾くと、さらにアレンジを加えた。
彼は、耳がよかった。たとえば、ピアノで適当な三つの音を同時にたたいても、その三つの音を正確に答えた。四つの音でも同じ。
音楽をやっている人には常識なのかもしれないが・。おれには、そんな彼が異星人に見えた。
Yは子供のころピアノ教室に通ったが、それは2年か3年の間だけ。あとは独学で、自分なりに学んだらしい。

大学3年になると、彼は錦糸町でバイトを始めた。キャバレーのバンドのピアノである。そんな仕事、どこで見つけたんだろうね。
彼に誘われて、その店に何度か遊びに行ったことがある。8人か9人ほどのバンドだったかな。バンマスは、ずいぶん怖そうな人に見えた。
ホステスの控室は、バンドマンの控室の横。人の出入りが多かったせいだろうか。いつもドアが開いていた。
ホステスが化粧をしたり、着替えたりするのが見えて、ドキドキしたことを覚えている。

「知らない曲や譜面のない曲、どうして弾けるの?」とYに聞いたことがある。
「そういうときは、ベースの音に聞き耳を立てるんだ」とのこと。おれには、まったく意味がわからなかった。

バンドマン同士の会話。
例のジャズ用語だ。「エフセン(4千円)とかゲーセン(5千円)なら、ずいぶんスイヤ(安い)だな」なんてね。
上野が「のがみ」で、ハワイは「ワイハー」、うまいは「マイウー」。これは、倒語というやつだ。
山下洋輔が森田一義をタモリと呼んだのは、有名な話だよね。そんな感じで、さらに麻雀、競馬、芸人などの用語が混乱。
「お茶を引く」などという古い遊女の言葉なんかも出て来て、もうカオスの会話だった。バンド内は、今もそうなのかな。

そんな彼、どうして日大の映画学科に入ったのだろうか。不思議。
でも、文学部を出たからといって、文学者や作家になるわけではない。法学部を出たからといって、全員が弁護士になるわけではない。
まあ、大学って、そういうもんだよね。

卒業後のY。
彼は、某ピアノメーカーの調律師になった。
「なるほどねえ」と、つい感心してしまった。彼らしいからね。

Y
の職場は地元の北海道だったが、何年もヨーロッパに出張していた。
仕事は、コンサート会場のピアノの調律。ドイツとかフランスを中心に、周辺の国をあちこち回ったらしい。移動も1人、アパートも自分で探したそうだ。
長野の田舎でチマチマ仕事をしているおれからみたら、別世界の話だね。

そんな彼の外国での話は、とてもおもしろかった。
「下宿先のおばさんが、用もないのに頻繁にやって来て、何度も誘惑された」とか「悪い奴に騙された」とか、とにかくいろいろ。
外国に一度しか行っていないおれには、すべて夢のような話だった。


今年の夏、同じ学科のNがたまたま長野にやって来た。
一緒に飲んだが、とても懐かしかった。学生時代の古い友人って、いいよね。共通の話題があるから。
Yに最後に会ったのは、4年前かな、5年前かな。来年あたり、彼のいる札幌に行こうと思っている。積もる話も、たくさんあるしね。
あいつ、少し髪が薄くなったかな()

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