(寛弘二年七月)十日、丙辰。
外記庁に参った。外記政が行なわれた。右大弁が初めて南所申文(なんしょのもうしぶみ)を担当することになっている。そこで座を起(た)って、内裏に入った。「御書所(ごしょどころ)に補すべき学生(がくしょう)九人に、弓場殿(ゆばどの)において試(し)を行なった。『秋草の露を珮(はい)とする』〈含を韻とした。七言は八韻である。〉を、巳剋に題として賜わった」と云うことだ。申剋、詩を献上した。
(権記〈現代語訳〉~講談社学術文庫)
露蘭叢(らんそう)に滴(しただ)つて寒玉(かんぎよく)白し 風松葉(しようえふ)を銜(ふく)んで雅琴(がきん)清し
(和漢朗詠集~岩波・日本古典文学大系)
題しらす 西行法師
あはれいかに草はの露のこほるらん秋風たちぬ宮きのゝ原
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
ゆふくれはあきかせわたるあさちふのをののしのはらつゆこほるらし
(嘉元百首~日文研HPより)
野草帯露といへる事をよめる 太宰大弐長実
まくすはふあたの大野の白露を吹なはらひそ秋のはつ風
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
白河院鳥羽殿におはしましける時、野草露繁と云事を 修理大夫顕季
うつらなくあたの大野のま葛原いく夜の露に結ほゝるらん
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより
白河院にて、野草露繁といへる心をおのこともつかうまつりけるに 贈左大臣長実
秋の野の草葉をしなみをく露にぬれてや人の尋行らむ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
詠露
秋萩に置ける白露朝な朝な玉としぞ見る置ける白露
(万葉集~バージニア大学HPより)
さを鹿の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露
(万葉集~バージニア大学HPより)
延喜御時うためしけれは たゝみね
秋のゝにをく白露をけさみれは玉やしけるとおとろかれつゝ
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
延喜御時うためしけれは 文屋朝康
白露に風の吹しく秋の野はつらぬきとめぬ玉そちりける
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
寛和元年内裏歌合に、露 花山院御製
荻の葉にをける白露玉かとて袖につゝめとたまらさりけり
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
よひよひにあきのくさはにおくつゆのたまにぬかむととれはきえつつ
(是貞親王家歌合)
秋歌とて 藤原為守女
秋そかしいかにあはれのとはかりにやすくもをける袖の露哉
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
左大臣の家にてかれこれ題をさくりて歌よみけるに、露といふもしをえ侍て ふちはらのたゝくに
我ならぬ草はも物はおもひけりそてより外にをける白露
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
秋くれは露やいかにとおきそめて夜はにかたしく袖ぬらすらん
(建長八年九月十三日・百首歌合~日文研HPより)
逢ふにかふる梅壺の女御
物思ふ袖の涙にうち添へていたくな置きそ夜半の白露
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
たいしらす 相模
我袖をあきの草葉にくらへはやいつれか露のをきはまさると
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
八月ばかり、女のもとにたたずみて、笛を吹き侍りける 露分けわぶる右大将
思ひ知る人に見せばや浅茅生の露分けわぶる袖の気色を
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
秋萩の上に白露置くごとに見つつぞ偲ふ君が姿を
(万葉集~バージニア大学HPより)
ゆふくれのまかきのはきのうへにおくつゆのかことのみたれてそおもふ
(壬二集~日文研HPより)
かつらのみこにすみはしめけるあひたに、かのみこあひおもはぬけしきなりけれは さたかすのみこ
人しれす物思ふころのわか袖は秋の草はにおとらさりけり
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
寄露恋 前大納言良教
我恋は草葉にあまる露なれやをき所なく身を歎くらん
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
夕置きて朝は消ぬる白露の消ぬべき恋も我れはするかも
朝な朝な草の上白く置く露の消なばともにと言ひし君はも
(万葉集~バージニア大学HPより)
百首歌奉りし時、寄篠恋 入道二品親王法守
玉さゝの葉分の露の消ぬへく思ふとまてはしる人やなき
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
庭草露と云ことを 如願法師
ふみわけてたれかはとはん蓬生の庭も籬も秋のしら露
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
みかど久しう訪(と)はせ給はりざりけるによませ給ひける うたた寝のきさいの宮
秋の夜の草葉におきて明かせども露あはれとて訪ふ人もなし
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
おとこにわすられてなけきけるころ、八月はかりに、まへなる前栽の露をよもすからなかめてよめる 赤染衛門
もろともにおきゐる露のなかりせは誰とか秋のよをあかさまし
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)
世中はかなき事おほく聞えける比、前栽の露を風の吹みたしけるを見て 従三位為子
人の世は猶そはかなき夕風にこほるゝ露はまたもをきけり
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
亭子院の御前の花の、いとおもしろくあさ露のをけるを、めしてみせさせ給て 法皇御製
白露のかはるもなにかおしからんありての後もやゝうき物を
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
中務にかゝせられける御草子のおくに、玉さゝのはわけにやとる露はかり、とかきて侍けれは 天暦贈太皇太后宮
みれとなを野へにかれせぬ玉さゝの葉分の露はいつもきえせし
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
たまささのはわきにおけるしらつゆのいまいくよへむわれならなくに
(古今和歌六帖~日文研HPより)
題知らず 夢路にまどふ大納言女
よしやただ幾世もあらじ笹の葉に置く白露にたぐふ身なれば
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
題しらす 中務
うへてみる草葉そ世をはしらせけるをきてはきゆるけさの朝露
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
今はただ消ゆべきものをしら露の何にこころを思ひおくらむ
(如願法師集)
中宮かくれ給てのとしの秋、御前の前栽に露のをきたるを、風の吹なひかしたるを御覧して 天暦御製
秋かせになひく草葉の露よりもきえにし人をなにゝたとへん
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
御服におはしましけるころ、人の返り事に 寝覚の中宮
さらでだに涙ひまなき墨染の袖に置き添ふ秋の夕露
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)