牛込日乘

日々の雜記と備忘録

七夕ブックレビュー

2007-07-08 23:59:46 | Book Review
 土曜の午後は名古屋在住の編集スタッフAさんと打合せのため、丸ビルへ。例年は東京国際ブックフェアの会場で待ち合わせるのだが、今年は土曜日にしか時間がとれなかったため東京駅前で会うことに。人事異動でチームの人間が変わったので、彼の紹介もする。ミーティング自体は上首尾に終了して一安心。

 帰りにお茶の水の丸善に寄り本を何冊か購入。ちょっと気になっていた四方田犬彦『先生とわたし』(新潮社、2007)を読み始めたところ、止められずに夜中の三時までかかって読了。詳しいことはまたまとめて書こうと思うが、「先生」である由良君美(ゆら・きみよし)氏の伝記としても、作者の自伝としても、(語句表現や構成に多少疑問が残る部分はあったことを差し引いても)読み応えのあるものだった。

 自分自身、あるいは周りの人間を見ていても確信するのだが、二十歳前後の時期に十歳以上年長の「師」という存在を持てたか否かということは、その後の人生に決定的な影響を与える。幸福な師弟関係が存在した時代が確実にあったが故に、「わたしはもう生きている限り二度と彼に会うことはないだろうと、自分に言い聞かせてきた」という四方田氏の悲愴な決意が胸を打つ。本人や身近な関係者が鬼籍に入った現在になってようやく一つの作品として結晶化したことも、理解できる。四方田氏はあまり破綻も面白みもない絵に描いたような「アタマのいい人」かと思っていたが、大学院在学中に韓国へ渡ったときのエピソードなどを読んで、実は骨のある人だったのだなあと感心した(このとき「不愉快ですね……韓国にも映画はあるんですか」と彼を冷たくあしらったのが高踏的な物言いで有名なフランス文学者兼映画評論家と思われる人で、「さもありなん」と嘆息した。こういうのを崇拝すらしている輩もいて辟易する)。

 それにしても、amazonのレビューなど参考にしてはならないことを再認識した。同書の読者レビューは現在のところ一つだけだが、こんなことを書いて自らの阿呆さを晒すくらいなら、本など読まない方がいいように思う。私の師であった先生は、「偉いといわれている人が言っていることの九割は(ということは普通の人が言うことのほぼ十割は)聞くに値しない」と言っていた。

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