そして、件のジャズバー、ボロンテールが土曜日に最後の日を迎える。そのことをM氏に伝えると、非常に残念がっていた。赤坂での飲み会が終わると、千代田線に乗って一人で原宿へ。予想通り、ただでさえ狭い店内が立ち飲み客も含めて大盛況。何とか場所を確保し、しばし感慨にふける。思えば一九九二年頃から断続的に、特に神宮前に住んでいた一九九七年から四年間くらいは何回かボトルも入れたりして通った店である(私がこういうことをしたのはこの店しかない)。コースターが和田誠さんが描いたレスター・ヤングとビリー・ホリデイのイラストで、この夜はご本人も来店していた。
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深刻な顔をしてマニアックにモダンジャズやフリージャズに没頭するような店ではなく、あくまでも音楽を楽しみながら初対面の人々とも気軽に交流できるというリラックスできるバーだった。ここ八年くらいは港区や渋谷区とはほとんど縁のない生活だったので、この前最後に行ったのは三年くらい前だったかもしれない。当時から道路拡張などで立ち退かなければいけないかもしれないとは聞いていたが、「実は閉店するんです」という寒中見舞いハガキをもらい、ああ、とうとうこの日がやって来てしまったかと思ったが是非もない。赤坂でまた店を開く計画があるとのことだったので、「決まったら連絡してください」と伝えて店を出る。午前二時。
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日曜日は、妻と娘に連れられ吉祥寺に「100かいだてのいえ」という絵本の展覧会を観に行く。場所は昨年まで伊勢丹があったところで、吉祥寺にも何年かぶりに来たので変貌ぶりに少しとまどう。近鉄百貨店もよく行っていた古本屋もなくなっていたが、有名な羊羹屋は相変わらず人が並んでいた。展覧会を見た後は吉祥寺からタクシーで北上し、西武新宿線武蔵関駅近くのとんかつ屋、高尾へ。武蔵関は大学生になって上京してからの四年間住んでいた街で、この店には数え切れないほど通った。当時は「この店のとんかつが日本で一番うまいに違いない」と思っていたものだが、まあ、年を重ねると世の中もっと広いものだということが(当然ながら)わかる。
とはいえ、良心的な価格設定や店主の気遣い、定食屋に求められる程度の清潔さをしっかり保っているところなど、ああ、やっぱりいい店だったなあと思う。「実は二十年くらい前によく来ていた」という話を店主にすると、開店から二十五年になるという返事。ということは、私が通っていた頃はまだ新しい店だったということになる。駅前商店街を歩くと当時あった店はほとんどなくなっていたのにも関わらず、何気ない普通のとんかつ屋が健在だったというのは嬉しいものだ。子供連れでこの店に来るとは想像もしていなかったが、娘も喜んでエビフライ(私は学生時代には高くて頼んだことがなかったのに)にかじりついていた。