死んでから三日間の間は髪も指の爪も伸び続けるが、電話は次第に鳴らなくなる。 ―ジョニー・カースン
死んでから三日間の間は髪も指の爪も伸び続けるが、電話は次第に鳴らなくなる。 ―ジョニー・カースン
毎日のように終電まで働きつつ「クールダウン」と称して帰宅前につい独り呑み、という生活を続けていたところ、どうやら体がおかしくなったらしい。一週間ほど前からのどの痛みと微熱が退かないため、ここ数日はビールの代わりにスッポンドリンクと漢方薬を飲んでいる。
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最近よく行く神楽坂の安いバーは、外国人のお客さんが多い。先日いつものように十二時過ぎに店にはいると、ある西洋人の男性がカウンターでビールを飲んでいた。この店で高歌放吟している外国人は珍しくない。しかし、静かに何やら難しそうな本を読んでいた彼は、異彩を放っていた。
よく見ると厚い思想書で、しかも日本語で書いてある。同じカウンターにいた別のお客さんが、よほど気になったのか、思わず「何を読んでいるんですか?」と彼に尋ねた。私の席からはよく見えなかったが、何やら<ジェンダー論>関係の本らしい。「へえー……。」と一同絶句。
聞いてみると、彼はミュンヘン出身のドイツ人で、東大で日本近代思想を研究するために日本にやってきたらしい。どういうわけか日本の明治時代に興味を持ち、学部で法律を勉強した後で大学院で日本語や日本思想について学んだそうだ。他の外国人のお客さんと話すときは英語で話したりもするが、日本語のしゃべりも完璧で、東京の地名なんかにも詳しい。
で、どんな研究をしているんですかと聞いてみると、キッパリ
「中江兆民先生です」
とのお答え。ニコニコしながら「明治時代の色々な人の本を読んでみたけど、やっぱり兆民先生は面白いですよ」とのコメントに、一同感心することしきり。ちなみに、「オススメは、『三酔人経綸問答』ですね。岩波文庫の青版にも入ってます」とのことである。
Few people can be happy unless they hate some other person, nation, or creed. --Bertrand Russel (1872-1970)
自分とは違う人間や国や信条を憎まずに幸福でいられる人はほとんどいない。―バートランド・ラッセル