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↑より抜粋転記↓
①「終わりなき人体汚染~
チェルノブイリ原発事故から10年~」 書き起こし
(NHKスペシャル、1996年4月26日放送、NHK制作)
10年前の今日、チェルノブイリ原発4号炉の爆発によって
人類史上最悪の放射能汚染が引き起こされた。
30万人以上が家を失い、
今も700万人以上が汚染された大地に暮らしている。
事故直後コンクリートによって封じ込められた4号炉は
未だに強い放射線を出し続けている。
放射能は人々から大地と家を奪い続けている。
夥しい量の死の灰が広大な大地に降り積もり、
人が住むことのできない汚染大地を作り出した。
事故がもたらした人体への影響は、
10年という歳月を経て風化するどころか、逆に深刻さを増している。
長い潜伏期間を経て、癌や白血病などが急激に増加している。
そして、放射能の影響は脳にまで及んでいることが分かってきた。
被爆者の身体の中で何が起きているのか。
世界中の科学者が詳しい調査や分析を進めてきた。
その結果、新しい事実が次々と明らかになってきた。
チェルノブイリ原発事故による放射能人体汚染は、
10年という時を経て、私たちの前に
想像をはるかに超える姿を見せ始めた。
テロップ「終わりなき人体汚染~チェルノブイリ事故から10年~」
10年前チェルノブイリ原発事故で被曝し、
避難してきた人々の間に、また悲劇が起きた。
一人の幼い命が失われたのだ。少女は事故当時3歳だった。
4ヶ月前背中に小さな瘤ができ、手術を受けたがその後再発。
見る見る病状は悪化し、癌で亡くなった。
5000人余りの避難民が暮らすこの地区で、
毎週のように人々が亡くなっている。
少女の死はチェルノブイリ原発事故の呪縛から
今も逃れられない現実を改めて見せつけた。
1986年4月26日未明、チェルノブイリ原発4号機が突然爆発、炎上した。
広島型原発500個分以上の放射性物質が放出され、原発周辺は強烈な放射能に包み込まれた。
放射能が最初に襲った町は、原発からわずか3㎞のプリピャチだった。
しかし事故が起きたことは市民には伝えられず、
人々はいつもと変わらぬ朝を迎えていた。
これは事故当日のプリピャチの映像。
画面の一部が時々白く光るのは、強烈な放射線でフィルムが感光しているためである。
チェルノブイリから放出されたセシウム137などの放射性物質は、
上空1500mにまで舞い上がり、ヨーロッパを始め、世界中に広がった。
原発から半径600㎞の汚染は深刻で、
その面積は12万平方㎞、日本の国土の3分の1近くにも達する。
黄色から濃い赤になるほど汚染レベルが高いことを示す。
一番濃い赤の地域は、東京のレベルの40倍以上にも達している。
最も汚染の少ない黄色の地域でも 日本の基準では立入禁止区域に相当する。
WHO(世界保健機関)の調査によると、
未だに780万人もの人々がこの汚染地域で生活し、放射線を浴び続けている。
(子供たちが無邪気に遊ぶ様子)
広島や長崎では、人々は一瞬のうちに大量に被曝した。
しかし、チェルノブイリでは、住民が
長期間にわたって少しずつ放射線を浴び続けているのだ。
(子供たちが遊んでいる場所の放射線量。
ガイガーカウンターは0.772μSv/hを示している。)
住民は、放射能が降り積もった大地から直接放射線を浴びている。
さらに、汚染された空気や水、そして食物が
体内に入ることによって、体の中からも被曝している。
住民は10年間、2つの被曝を同時に受け続けてきたのだ。
(『IAEA チェルノブイリ調査報告書』1991年の映像)
チェルノブイリの放射能による
人体への影響はどのように考えられてきたのか。
これは、事故から5年後、
IAEA(国際原子力機関)がまとめた報告書である。
当時の住民の健康状態を調査した結果、
「放射能が直接影響したと考えられる健康被害は認められない」
と結論づけている。
そして、今後起こりうる住民の健康被害については、
「将来、癌または遺伝的影響による増加があったとしても、
それは自然の増加と見分けることは困難であろう」と予測している。
(ウクライナ共和国キエフ市の映像)
しかし、IAEAの予測に反して、
その後深刻な事態が次々と起き始めた。
異変は、まず子供たちに起きた。
(少女が治療を受ける映像)
この少女は小児甲状腺癌の治療を受けている。
本来100万人に1~2人しか罹らないという小児甲状腺癌が、
子供たちを中心に急激に増加し始めたのだ。
甲状腺は、
身体や脳の発達に不可欠な甲状腺ホルモンを作る重要な器官である。
チェルノブイリ事故により放出された放射性物質の1つ、
ヨウ素131は、体内に入ると
甲状腺に蓄積しやすく、癌を引き起こす。
その結果、甲状腺ホルモンの分泌異常が起き、
成長期の子どもの身体や脳の発達が遅れてしまう恐れがある。
この少女は事故当時4歳だった。
チェルノブイリ型の甲状腺癌は、通常のタイプに比べて進行が早く、
転移しやすい特徴がある。
このため発見され次第、直ちに手術しなければならない。
この少女の甲状腺にも癌の黒い影が発見された。
キエフ内分泌代謝研究所 ミコラ・トロンコ所長
「最初に子供たちに甲状腺癌が増え始めたときは、
私も正直言って放射能の影響と言えるかどうか半信半疑でした。
しかしその後、汚染の高い地域ほど患者が多く、
しかも癌のタイプが通常のものと違うことから、
放射能の影響に間違いない、と確信しました。
これからさらに患者は増えていく、と予想しています」
WHO(世界保健機関)の調査によると
小児甲状腺癌は、事故から4年後の
1990年から急激に増え続けている。
(キエフ小児産婦人科研究所の映像)
最近、汚染地域に住む妊婦たちの身体に
様々な異変が起きていることが分かってきた。
キエフ小児産婦人科研究所では、事故直後から
汚染地域に住む妊婦2万人以上について、
出産に関する詳しい調査を続けてきた。
その結果、
汚染地域の妊婦の貧血が、事故前に比べて10倍に増えたほか、
死産や早産が多く発生していることが分かった。
出産異常の原因をさらに詳しく分析してみると、
子宮内出血や早期破水が増える傾向にあり、
主に母胎の異常が
死産や早産を引き起こしていることが分かった。
(一人の妊婦の映像)
妊娠5ヶ月のこの女性は、事故当時11歳だった。
これまでに一度死産を経験しているため、
不安を感じてこの研究所に検査を受けにやってきた。
医師
「胎盤が厚くなりすぎています。胎児に酸素不足の兆候がありますね」
胎盤は、胎児に酸素や栄養を供給する重要な役割を果たしている。
胎盤は通常この時期(妊娠5ヶ月)であれば2㎝ほどの厚みだが、
この妊婦の場合5㎝以上に肥大している。
これは子宮内の酸素が不足していることを示し、
このままでは胎児の成長に深刻な影響が出る恐れがある。
画面右側が胎児の頭。この胎児の頭の直径は4㎝ほどしかなく、
通常の胎児に比べて成長が遅れていることが分かった。
この研究所では、こうした妊娠中の異常は、
汚染地域の妊婦によく見られると指摘している。
キエフ小児産婦人科研究所 ダシケビッチ産婦人科部長
「深刻な状況です。
かつてのIAEAの予測と大きく食い違ってきています。
私はその原因は、長期間の被曝のためだと思います。
今後、長期的な被曝の影響を
注意深く調査していかなければいけないと思います。
また、妊婦や新生児に染色体の異常も見られるので、
今後世代を超えた遺伝的な影響が
出てくるかもしれません。」
汚染地域では事故後、人工中絶の数が急増している。
放射能による被曝が胎児に悪い影響を与えるのではないか、
という不安もあるからだ。
(ミンスク遺伝性疾患研究所の映像)
ミンスク遺伝性疾患研究所。
ここではチェルノブイリ原発事故によって被曝した妊婦の
染色体にどのような変化が起きているのかを調べている。
放射能の汚染地域に住む妊婦2000人以上の
血液細胞の染色体を詳しく分析してきた。
その結果、被曝量が高い妊婦ほど
染色体の異常の程度が大きいことが分かった。
染色体には、親から子へ生命の情報を伝える遺伝子が乗っている。
(2つの染色体が画面に示される。)
右の染色体の上の部分にわずかな異常が見られる。
もしこの部分の遺伝子の異常が子どもに受け継がれると
先天性障害に繋がる可能性がある、と
この研究所の専門家は見ている。
ミンスク遺伝性疾患研究所 ゲナジー・ラジュック所長
「われわれの調査では、妊婦の染色体の異変ばかりでなく、
新生児の先天性異常も
汚染の高い地域ほど増えていることが分かりました。
その原因としては、ストレスや栄養障害や化学物質による汚染など
様々な複合的要因が考えられます。
しかし、それらの中でも1つの大きな要因として、
放射能の影響を考えなければならないと思います」
この研究所の調査によると、
放射能の高濃度汚染地域では、
先天性の異常を持った新生児の数が事故前の1.8倍に増加している