関越道事故を受けて,高速ツアーバスを,「新高速乗合バス」として,高速乗合バスと一本化し,停留所の設置などを義務づける方向が決まったとのことである。
ツアーバスについては,Wikipediaに,これまでの歴史を含めた解説が掲載されている。
これによると,1980年代に,当初北海道で登場した会員制バスは,乗合バス(道路運送法上は「一般乗合旅客自動車運送事業」というようだ。)との競合を問題視されて「貸切免許による乗合運送の特別許可」(当時の道路運送法24条の2)という規制を受けて,路線バスとの競合は回避されていたようだ。
その後,平成12年と14年に,道路運送法の改正による規制緩和が行われて,一般貸切旅客自動車運送事業に参入する観光バス業者が増加し,観光バス事業者と路線バス事業者との競争が激化したとされている。(ここまでWikiからの要約引用)
確かに,現在では,道路運送法24条は,24条の2も含めて削除されており,その当時の文献に当たらないと,どのような規制だったかはっきりしないのだが,上記のWikiの記事から推測する限りは,運送以外のサービス(一般の貸切バスでは,宿泊やバスガイドによる観光地の案内が提供するサービスに含まれているという意味だと思われる。)を提供しない貸切バスツアーを「貸切免許による乗合運送」として,これに特別の許可を要するとしていたと推測される。
しかし,このような規制条項が削除され,運送サービスのみの一般貸切旅客自動車運送事業が,特別の許可を要することなく営めることになると,競争の激化と,それに伴うコスト削減が行われることは目に見えている。
道路運送法9条の2では,一般貸切事業者にも,運賃・料金の届出義務を課し,不当な設定に対しては,変更命令を出すことができることになっているが(9条の2,9条6項),規制緩和ということで,これによる規制も,それほど厳しいものではなかったのではないかと思われる。そうでなくても,貸切事業者は,停留所の設置義務がないため,その分のコストがなく,一般乗合事業者よりも安い運賃の届出が認められることになると思われ,結局は,一般乗合事業者との競合はもちろんのこと,貸切事業者間での競争が激化することは,当然といえば当然のこととなる。
そして,世の中の規制緩和の流れの中で,これに対する行政指導にも,乗り出しにくい状況があったのではないかと思われる。
ただ,Wikiにも,平成19年頃から,省令改正が予定されていたとの記述はあるが,結局は,これが実現しないまま,関越道事故に至ってしまったということであろう。
こういう問題が起こるたびに思うのだが,規制緩和論者は,自分に都合のよいときは規制緩和を声高に叫ぶのだが,規制緩和で不都合が起きると,途端に黙ってしまう。その結果,多分今回もそうなるのだろうが,従前よりも厳しい規制が敷かれるという結果になってしまう。
マスコミの論調を見ていると,その場その場で都合の良い方の主張を取り上げているだけで,それでは,社会全体がどうなるのがよいのかというビジョンが全く見えていない。
今回も,国土交通省は,国民の声を受けて規制緩和をしたのだから,規制緩和路線を貫くと言うべきではないのか。規制緩和によって不都合が生じても,それは,競合する業者のどれを選択するかは,賢明な国民が自ら決定すべきことであって,行政が介入することではない,そのようなことをすると,自由競争,市場原理による悪質業者の排除はできない,と明言すべきではないか。
規制緩和は,自由競争を促進するが,それに対する規制は市場原理に委ねられるのであり,市場原理とは,利用者である国民が賢明な選択をすることによるものだ,用は国民の責任なのだ,と,そういうべきではないのか。
同じことはマスコミにもいえることであり,マスコミとして規制緩和を指示したのであれば,それによる弊害は,国民が自ら負うべきである,と論ずべきではないのか。
規制緩和による弊害のために規制が強化されることになれば,それは,マスコミがとても嫌っている官僚の肥大化を一層促進することでしかないはずである。
しかし,規制を叫ぶマスコミには,そのような,自らに対する反省が聞かれたことはない。
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