雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

社会のルール ・ 小さな小さな物語 ( 1263 )

2020-06-17 15:47:38 | 小さな小さな物語 第二十二部

注目を集めていた、元事務次官が長男を殺害した事件の裁判において、懲役6年の実刑が下されました。
理由はどうであれ、明らかな殺人事件ですから、厳正な裁判が行われ、然るべき判決が下されるのは当然のことではあります。民主国家であれば、犯罪が裁かれるのが社会のルールであり、このような問題が大きな話題になることは、むしろ不自然と考えるべきなのかもしれません。
しかし、被告人となってしまった方の家庭環境を考えてみた場合、何とも表現しがたい感情が沸き上がって来て、一体、この被告人を誰が裁けるのかという気持ちになってしまいました。

この裁判には、検察側から懲役8年の求刑がなされていて、一般的には情状などを酌量すれば、4年から6年程度の実刑というのが専門家やテレビの解説者の意見のようでした。一部には、執行猶予の可能性も皆無ではないという意見を述べられる人もいました。結果は、大方の予想の中の一番厳しい判定になったような気がします。同時に、この判決を下さなければならなかった裁判官の方々の煩悶は、並大抵の事ではなかったのではないかと推察致します。

被告人となった方は、事務次官までなった方です。社会的な経歴が刑事裁判の量刑に影響があってはならないのは当然のことです。
ただ、ごく素直に考えて、被告人は最高学府の教育を受け、公務員という社会がどういうものかを私は知らないのですが、少なくとも事務次官という地位は、運や弾みだけでは就ける地位ではないはずです。
しかし、大きな組織の実質的なトップに立ち、わが国の行政のある部分に大きな影響を与えるほどの仕事を任せられたほどの人物であっても、一つの家庭をコントロールすることが至難であることが浮き彫りにされたような気がします。

そもそも、一つの家庭をコントロールする、という考え方が間違っているのでしょうが、家庭という組織は、もっとも原始的な組織であり、最も根源的な組織であり、最も原則論が通じにくい組織のような気がします。
今回の事件においても、多くの指導的な立場の人が指摘していることに、「一人で抱えすぎないで、外部の力を借りて欲しかった」というものがあります。まことにその通りであると思いますし、そうして欲しかったと思います。
しかし、伝えられている限りでは、何度かそうした努力をされたようですが、多くの場合は、「家庭の問題には公権力は入りにくい」という問題に直面したようです。また、第三者としては立派な意見は述べることは出来るのですが、当事者となった場合、果たしてどういう行動が出来るのでしょうか。
国家間の争いは大きな不幸を生み出します。組織内のゴタゴタは、組織を分断し脱落者を生み出します。しかし、家庭という組織は、それは大家族であれ独り暮らしであっても、傷を癒し心身を蘇えさせるべき場所であるはずですが、戦いの場であるとなれば、なんとも辛いものです。

( 2019.12.17 )

 


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