雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

矛盾を抱きながら ・ 小さな小さな物語 ( 1387 )

2021-07-06 13:36:57 | 小さな小さな物語 第二十四部

「矛盾」という言葉があります。
「ホコ」と「タテ」という漢字を並べて「ムジュン」と読みますが、この言葉を知っている人にとってはどうと言うことはありませんが、知らない場合には、読みといい意味といい、なかなか難解な言葉と言えます。
言葉の意味は、一般的には「論理のつじつまが合わないこと」と言った意味で使われますが、論理学で用いられるときには、かなり難解な説明がされていますので勘弁させていただきます。

この「矛盾」という言葉は、「韓非子」にある話から生まれたものです。少々蛇足になりますが紹介させていただきます。
『 「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を売っていた礎の男が、客から「その矛でその盾を突いたらどうなるのか」と問われ、返答することが出来なかった。 』という素晴らしい話から誕生した言葉です。
素晴らしい話ではありますが、この物語は、中国の戦国時代の法家である韓非が儒家(彼にとっては孔子)を批判するために作られた例え話のようです。
いずれにしても、「矛盾」という言葉は、今日でも私たちに親しまれていてよく使われています。故事などから生まれた言葉の中では、よく知られた言葉の一つと言えましょう。

さて、私たちの日常を考えてみますと、「矛盾」という言葉も時々お目にかかりますが、それ以上に、つじつまの合わないことや、裏表を使い分けるようなことはあふれるほど登場してきます。親の小言の多くがそうであるように、政治家の言動にも多く登場しますし、およそ正義を大上段に構える主張も「矛盾」の宝庫のような気がします。
しかし、同時に、「矛盾」を単純に「悪」として捉えるのも正しくないように思うのです。 
礎の男は客の問いに答えられなかったとされますが、実際は、密かにその二つの武具をぶつけ合って、矛が劣っていれば盾をそのまま売り続け、盾を売っているうちにさらに鋭い矛を造り、といったことを繰り返したように想像するのです。

世に正しい戦争など存在しないと考えたいのですが、戦争が科学を育み発展させてきたことも否定できません。
矛盾に満ちた論理で弱者を痛め続ける輩を許すことは出来ませんが、人は弱く、常に考えは揺れ動き、矛盾を矛盾と気づかぬままに、時には承知の上で必死に生きていかなくてはならないこともあるように思うのです。
矛盾にあふれた日常であればこそ、自らの矛盾をいかに抑えるか、周囲の矛盾をどこまで容認することが出来るのか、そのあたりに生き様の一端が浮かび上がってくるように思うのです。

( 2021.01.16 )

 


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