雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

二条の姫君  第百十二回

2015-07-24 08:27:19 | 二条の姫君  第三章
          第三章  ( 三十八 )

そういえば、この御船遊びの日の昼頃でございましたが、かねてよりご装束の見事さで評判の帯刀清景殿が、この日は二藍打ちの上下で、松と藤が刺繍されてあるものを着て内裏に参上されましたが、入れ違いに内裏からは、蔵人頭大蔵卿平忠世殿が参られるなど晴れがましいさまと慌ただしさが行き交っている様子でした。
祝賀に関わった方々への恩賞などのお手配なのでしょうか。

この度の祝賀の御贈物は、天皇へは御琵琶、春宮へは和琴だそうでございます。
また、官人たちへの報償も行われました。
後深草院の御給(オンキュウ・年給。上皇・女院などが推薦した一定数について任官・叙爵させることが出来る権利。それによる謝礼が所得の一部になる)では、藤原俊定殿が正四位下に、春宮の御給として平惟輔殿が正五位下に任ぜられました。
春宮大夫の琵琶の賞は二条為道殿に譲られることになり、為道殿が従四位上に昇進されたそうです。その他にも、数多くの恩賞が出されたそうでございます。

春宮の行啓も還御されましたので、すっかり寂しくなり、名残も惜しくありました。
御所さまは、これから西園寺の方角に御幸なされるということで、姫さまにお誘いの使いをたびたび寄こされました。
しかし姫さまは、「憂き身はいつも同じだ」などと申されて、二度と出仕なされるお気持ちはないようでございました。
この度の御祝宴におきましても、常に控え目であり、御立場も軽輩に近い御扱いが見えましたが、それでもその美しさと、知性溢れる御振舞いは自ずから際立っておりました。お仕えする者としては、このまま内裏を離れてしまわれるのは残念な限りなのですが、姫さまの憂き世を離れたいという思いは、極めて強いものでございました。

そしてほどなく、さるご縁を求めて、その宿坊に身を寄せることになったのでございます。

                                          ( 第三章 完 )

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