雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

取れど尽きぬ米袋 ・ 今昔物語 ( 17 - 47 )

2024-09-29 08:20:37 | 今昔物語拾い読み ・ その4

    『 取れど尽きぬ米袋 ・ 今昔物語 ( 17 - 47 ) 』


今は昔、
越前国に生江世経(イクエノヨツネ・伝不詳)という者がいた。加賀の掾(ジョウ・三等官)であった。
はじめは家が貧しくて、食べる物にさえ事欠く状態であったが、格別熱心に吉祥天女にお仕えしているうちに、後には富裕者となり、財産に飽きるほどの資産家となった。

はじめ、貧しかった頃、食べる物がなく、何も食べずに数日を過ごしたので、「頼みにさせていただいている吉祥天女さま、お助け下さい」と念じ奉っていると、ある人が「門前にたいへん美しい女人が『家の主人に会いたい』と言っています」と告げた。世経は、「誰だろう」と思って出てみると、まことに美しい女人が、土器に飯一盛りを持って、「お腹が空いていると言うことなので、これをお食べ下さい」と言って与えてくれたので、世経は喜んで、これを受け取って家に入り、まず少し食べてみると、それだけで十分満腹になり、二、三日経っても飢えの気持ち全くしなかった。
( このあたり、「欠字」が多く、推定して書きました。)

そこで、この飯を置いていて、少しずつ食べていたが、数日経つと、この飯はすっかりなくなってしまったので、「これからどうするか」と思って、また前のように、吉祥天女に念じ奉っていると、先日のように人がやってきて、「この前のように、『家の主人に会いたい』と言っている女人が、門前にお見えです」と告げたので、世経は前と同じように、喜んで大あわてで出てみると、前の女人が見えられていて、世経に「あなたが可哀想だとは思っていますが、どうすればいいのでしょうね。それでは、この度は下文(クダシブミ・命令書)を上げましょう」と仰せになり、文を下さったので、世経が開いて見ると、「米三斗」という下文であった。
これをいただいて、世経は「これは、どこへ行って頂戴すればよいのでしょうか」とお尋ねした。
女人は、「此処から北の方角に峰を越えていくと、一段と高い峰があります。その峰の上に登り、『修陀々々(シュダシュダ)』と呼ぶと、それに答えて出てくる者があるでしょう。その者に会って貰いなさい」と仰せになった。

世経はこれを聞いて、教えられたように行ってみると、確かに高い峰があった。その峰の上に登り、女人が教えて下さったように、「修陀々々」と呼ぶと、高くて怖ろしげな声で答えて、出て来た者がいた。
見ると、額に角が一本生えていて目が一つの者で、赤い褌をした鬼であった。それが、やって来ると世経の前にひざまづいた。
よく見ると、まことに怖ろしげな姿である。それでも懸命に堪えて、「こういう御下文があります。この米をいただきたい」と言った。
鬼は、「その事は承知しております」と言って、下文を手に取って見て、「下文には『三斗』となっていますが、『一斗を差し上げなさい』との仰せでした」と言って、米一斗を袋に入れて差し出したので、それを受け取って世経は家に帰った。

その後、この米を取り出して使ったが、また袋の中に米が自然に満ちて、取れども取れども尽きることがなかった。
千万石を取っても、やはり袋の中には一斗の米がなくなることがなかった。それによって世経は、程なく富裕者となり、諸々の財産が満ちあふれた。(この前後にも、「欠字」が多くあるが、一部推定しました。)

ところが、その国の守[ 欠字。氏名が入るが不詳。]という人が、これを聞いて世経を召し出して、「お前の許に、不思議な袋があるそうだ。それをすぐに我に売るように」と言った。世経はその国内に住んでいる者なので、守の仰せを拒絶することが出来ず、袋を守に与えてしまった。
守は袋を得て、喜んで、その代価として米百石を世経に与えた。
守の許においても、同じように一斗の米を取り出すと、また同じように一斗の米が出てきて尽きることがなかったので、守は、「実にすばらしい宝を手に入れたものだ」と思って、取り出し続けているうちに、百石を取り出し終わると、一斗の米は尽きて、二度と出てこなくなった。
そこで守は、当てが外れて口惜しく思ったが、どうすることも出来ず、袋を世経に返してやった。

世経は、袋を返してもらって、家に置くと、その所では、また以前のように米を取り出して使うと、尽きることなく米が出てきたので、世経はたいへんな富裕者になり、様々な財宝が溢れるほどになった。
守の心は実に愚かである。世経は吉祥天女にお仕えして与えられた物を、関係ない者が奪い取ったところで、どうしてその恩恵を受けることができようか。
真心をこめて、仏天にお仕えする人は、このようなのである、
となむ語り伝へたるとや。

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