『 突風が絹を運ぶ ・ 今昔物語 ( 17 - 48 ) 』
今は昔、
紀伊国の安諦郡(アテノコオリ・和歌山県有田郡)に、私部寺(キサイベデラ・伝不詳)という寺があった。
その寺の前に一軒の富裕な家があった。その家に盗人が入り、絹十疋(一疋は二反)を盗み取った。誰が盗んだのか分らなかった。
ところで、その家の主は、以前から妙見菩薩を深く信仰していたので、この絹を盗まれた事を、心を込めて妙見に祈請したが、その盗人は、この盗んだ絹を持って、その家の北の辺りにある市に行って売ろうとしたので、ある人がそれを買い取った。
その絹は、盗まれてからまだ七日も過ぎていないのに、その市場に突然激しい風が吹いて、その絹を空に巻き上げて、遙かに南を指して吹き持っていく。そして、あの絹の持ち主の家の庭に吹き落とした。
絹の持ち主はこれを見て、喜んで手に取り、「これはほかでもない。妙見菩薩のお助けによって、[ 欠字。「絹が戻ってきたのだ」と言った言葉らしい。]」と、ますます信仰心を起こしてお仕えした。
かの市において、絹を買おうとした人は、この事を伝え聞いて、「あれは盗んだ絹だったのだ」ということを知ったので、その絹を取り戻そうとはしなかった。(このあたり欠字が多く、一部推定して書いています。)
これは不思議なことである。心を尽くして仏天にお仕えしていたので、このようなお助けを得たのである、
となむ語り伝へたるとや。
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