麗しの枕草子物語
天女ではございませんが
故関白殿の服喪の頃のことでございます。
六月つごもりの大祓の神事ということで、中宮さまは内裏を退出されることになりましたが、職の御曹司は、方角が悪いということで、太政官庁の朝所(アイタドコロ)にお渡りになられました。
その夜は、暑いし、真っ暗な闇夜で、とても狭くて不安な気持ちで夜を過ごしました。
翌朝、庭に出て建物の様子などを見てみますと、全体がとても低く、瓦葺きで、唐風でもあり、登花殿などとは大分違います。格子などもなく、御簾ばかりが懸けられています。
ただ、それがかえって珍しく、情緒もありますので、女房たちは庭に出るなどしてはしゃいでいます。
時をつかさどる陰陽寮などがすぐ近くなので、時を告げる鼓の音が、いつもとは違って聞こえてきますので、その音に誘われて、若い女房たち二十人ばかりが、そちらへ行き、階段を使って陰陽寮の高楼に登っています。
その様子を見上げますと、全員が、薄鈍色の裳や唐衣、同じ色の単襲、紅の袴などを着ていて、列をなして階段を上っているものですから、「天女だ」とまでは申しませんが、「天より舞い降りたのか」と見えるほど、見事な光景でしたわ。
(第百五十四段・故殿の御服の頃、より)