あれは、そう…古の昔…
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小学校4年生。
人見知りで引っ込み思案、ごくごく普通な子…。
担任になったのは、
M木先生。
背筋のピッと伸びた、厳しいお顔立ちの、年配の婦人です。
キッと寄せられた額の皺、ギュッと結んだへの字口、ギロリと睨む大きな眼にキラリと光る金縁メガネ…。
「 うん…怖いよね。」
一年間になるかも…。」
「 そ…そうかもね…。」
「 うわぁ、気の毒~。」
M木先生は、初めての挨拶で こんなことを言いました。
「 先生の眼鏡は、ピーターパンから貰ったのよ♪」
小学校4年生。
「 ネバーランドは何処かに在る。」 と信じたい、想像力豊かな子…。
そして、この “ ピーターパンの眼鏡 ” は、M木先生のお得意のフレーズで、その後もことある毎に登場しました。
確か、5月頃だったでしょうか…国語の授業で作文を書くことになりました。
お題は自由です。
私は、M木先生の眼鏡について書くことにしました。
「 先生の眼鏡はピーターパンから貰った眼鏡です。何でも見えちゃう素敵な眼鏡。私もいつかピーターパンから貰えるといいなぁ。」
…とか何とか…。
おべっかでも、点数稼ぎでもなく、ただ単純に憧れて書きました。
でも 真剣に…。
作文なのに
絵も添えたりして…。
後日、返ってきた私の作文には、先生の感想が添えられていました。
「 先生の眼鏡は特別な眼鏡です。みすずさんも一生懸命勉強すれば、貰えるかも知れませんよ。もっと頑張りましょう。」
…とか何とか…。
ピーターパンというファンタジー溢れる世界観と比べると、実に夢のない現実的な話ではありませんか…。
日が経つにつれ、M木先生のお気に入りは “ 品行方正・成績優秀な生徒だけ ” ということが判明しました。
解ける人?」
「 ハイッ!」
「 ハーイ!」
「 …ハイ…。(当てないで~)」
「 ………。」
( 良かった…。)
授業中の質問や解答も、先生が指すのは決まった子ばかり…。
Sさんです。」
褒めるのは いつだって良い子で、腕白小僧とかお調子乗りの賑やかな子が大嫌い。
地味で目立たない普通の子も、ほとんど相手にされません。
嫌いなんだねぇ…。」
「 うん…。」
完全に無視だぜ…。」
その後、M木先生が 「 先生の眼鏡はピーターパンから貰ったのよ♪」 という度に、私はコッソリこう思うのでした。
先生が貰ったのは、
色眼鏡だったんだね…。)
小学校4年生。
“ 先生も人の子 ” と知らされた一年間でした…。