風のように

ゆらり 気ままに 過ごすとき
頭の中は妄想がいっぱい
錯覚の中で生きるのが楽しみ

方丈記

2022-03-24 00:29:13 | こころ

予、ものの心を知れりしより、四十あまりの春秋をおくれるあいだに、世の不思議を見る事、ややたびたびになりぬ。
 去 安元三年四月廿八日かとよ、風ははげしく吹きて、静かならざりし夜、戌の時ばかり、都の東南より火出で来て、西北に至る。はてには、朱雀門、大極殿、大学寮、民部省などまで移りて、一夜のうちに塵灰となりにき。
 火元は、樋口富の小路とかや、舞人を宿せる仮屋より出で来たりけるとなん。吹き迷う風に、とかく移りゆくほどに、扇をひろげたるがごとく、末広になりぬ 。遠き家は煙にむせび、近きあたりはひたすら焰を地に吹きつけたり。空には灰を吹き立てたれば、火の光に映じて、あまねく紅なる中に、風に堪えず、吹き切られたる焰、飛ぶが如くして、十二町を越えつつ移りゆく。その中の人、現心あらむや。或は煙にむせびて倒れ伏し、或は焰にまくれてたちまちに死ぬ。或は身ひとつ、かろうじて逃るるも、資材を取り出づるに及ばず。七珍万宝さなが灰塵となりにき。そのつひえ、いくそばくぞ。そのたび、公卿の家十六焼けたり。まして、その外、数え知るに及ばず。惣じて、都のうち、三分が一に及べりとぞ。男女死ぬるもの数十人、馬▪牛のたぐひ、辺際を知らず。
(方丈記 新潮日本古典集成より)
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