りなりあ

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約束を抱いて 第二章-8

2007-01-03 12:17:38 | 約束を抱いて 第二章

抱き寄せられた腕の中で、むつみは優輝の話をした。
初めて出会った時から今までの事を話しながら、切ない気持ちが込み上げる。
杏依の腕の中は温かく、話し終えた後も、ずっとそこに留まっていたいと思うが、どうしても体勢が無理になってしまいむつみは杏依から離れた。
「昔のようにはいかないわね。むつみちゃん背が伸びたし、もうすぐ越されちゃうわ。」
自分の腕の中から抜け出したむつみに、残念そうに杏依が言う。
杏依に初めて会った日の記憶は定かではないが、二度目に会った時の事なら、むつみは鮮明に覚えている。
新堂家のパーティで、むつみは杏依と再会した。
その時にむつみの不注意で、杏依の服を汚してしまったのだが、杏依は怒らずにむつみを慰めてくれ、彼女の腕の中で泣き続けたのを覚えている。
怒られて当然の事をしてしまったと分かっていたし、他の女性なら絶対に怒っていただろう。
〝新堂晴己の婚約者を選ぶ為のパーティ〟だったのだから、その邪魔をされてしまったら、折角参加した女性達はショックを受けて当然だ。
晴己に会う為に綺麗に着飾り自分自身を偽る女性達は、むつみに対しても優しかった。だけど、晴己の姿が見えなくなると、途端に態度を変え冷たい態度になってしまう。
むつみは優しくしてくれる杏依の態度や行動が不思議だった。杏依だけは、他の女性と何もかもが違う。
「橋元君がむつみちゃんと同じクラスねぇ。」
杏依は口元に笑いを浮べる。
「変な感じ。橋元君には何度か会ったことがあるけれど、むつみちゃんと同じ歳だとは思えないわ。むつみちゃんの方が、ずーっと大人に感じる。」

笑う杏依が思い浮かべている優輝は、夏以前の優輝だった。
何も問題を抱えていなかった優輝は、とても明るい性格だった。
「はる兄には」
「言わないわ。」
むつみの気持ちを悟ったように、杏依が答える。
晴己は既に状況を知っているし、今更何かを隠しても遅いのだが、杏依に対して吐露してしまった素直な気持ちを、晴己に知られるのは抵抗があった。
「2人が知り合いだって、すぐに分かったの?」
「優輝君が、はる兄を知っているのは当然だと思ったの。はる兄が優輝君を知っているかどうかは確信はなかったけれど、でも、優輝君ほど実力があれば、はる兄の目に留まるだろうし…もっと早くはる兄に話せばよかったのに、話せなくて…。」
「晴己君が全てを知るのは無理でしょう?」
杏依の言葉に、むつみは首を傾げた。
確かにそうだと思うし、むつみ自身も全てを知られるのは抵抗がある。だけど晴己に隠し事をしてしまった事が、問題を大きくしてしまったような気もする。
「ちょっとだけ…寂しいかも。」
杏依が呟く。
「こんな事を思ってしまうなんて、自分で驚いちゃうけれど…。だけど、むつみちゃんに好きな人が出来た事、なんだかとても寂しい。」
杏依がソファに体を沈める。
「どうしてなのかな?むつみちゃんにとっては嬉しい事なのに。いつかそういう時が来たら、私も一緒に喜べると思ったのに。」

杏依の寂しそうな声色が、むつみの耳に届く。
「むつみちゃんも好きな人ができる年頃なのよね。今は戸惑っちゃうし、私は橋元君の事を詳しく知っているわけじゃないから、どんな子なのかな、って思うし、でもむつみちゃんが選んだ人だから素敵な人だと思うし、きっと素敵な彼氏なのよね?でも、やっぱりむつみちゃんを独り占めしちゃうなんて、彼女にしちゃうなんて、なんだか許せない気もするわ。」
杏依は表情をコロコロと変えていた。