りなりあ

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約束を抱いて 第二章-14

2007-01-08 13:26:25 | 約束を抱いて 第二章

「かわいいー。ねぇ、むつみちゃんは、どっちが好き?」
「私?えっと私は…。で、でも、はる兄は?」
むつみは離れて座っている晴己に視線を向けようとするが、杏依の声に呼び戻される。
「むつみちゃんは、どっちが好き?」
答えを求める杏依を無視することなど出来ず、むつみは広げられている洋服を見比べる。
「えぇっと…こっちかな?」
「そうよね、そうよね?こっちの方が可愛いよね?えっと、じゃあ次は」
さきほどから、何度も同じ会話を繰り返している。その度に晴己の事が気になるのだが、彼は座っている椅子から立ち上がる気配がなかった。
日曜日の今日、むつみは杏依に呼ばれて新堂の家に来ていた。生まれてくる子供の服を一緒に選んで欲しいと言われたのだ。
杏依の馴染みの店の店員が、大量の洋服を新堂の家に持って来ていて、次から次へと杏依はむつみに意見を求める。
「ねぇ、どっちがいいと思う?」
晴己を見ていたむつみは、杏依の声に視線を戻して、テーブルに広げられている服を見る。
「え?」
「私はね、こっちがむつみちゃんに似合うと思うけれど。ほら、かわいいでしょ?」
杏依が手に取った服は、グレーのワンピースだった。
「…かわいい。」
思わず生地に触れると、手触りが良く柔らかい。
これからの季節に合わせて生地は厚めだが、体のラインが出そうな感じの柔らかさだった。
「かわいいでしょ?」
杏依が嬉しそうにワンピースをむつみへと差し出す。
丈が短く膝が見えてしまうかもしれない、そう考えながら受け取ろうとしたが、
「むつみちゃん。」
晴己の声に、むつみは動作を止めた。
いつの間にか、晴己がむつみの背後に立っていて、むつみは椅子に座ったまま、振り向いて彼を見上げた。
「こっちのほうがいい。」
むつみの膝の上に、ブラウンの生地が落とされた。
手に取ると、グレーの生地と同じように柔らかい。
あまり目立たないが、小さな花の模様がプリントされているスカートだった。
これも可愛いな、と思いながらスカートをテーブルの上に広げると、晴己が後ろからむつみの頭を撫でた。
彼のその動作に、むつみは気付く。
「杏依さん…私…この色のスカートを持っていないの。」
むつみはスカートを手に取り杏依の目の前に広げてみる。
「あら、そうなの?」
「ねぇ、着てみてもいい?」
「もちろんよ。」
杏依の言葉を聞いた店員が、むつみを促し、隣の部屋に移動する為にドアに向かう。
生まれてくる子供の服を選んでいたのだから、自分の服を選ぶ必要などないと最初は思った。
もし、欲しいと思っても、それを晴己と杏依に言う必要もない。
小さな頃は、この家で服を選ぶ事が多く、殆どが晴己が選んだ服で、そこにむつみ自身の意思があったかどうかは、むつみ自身も定かではない。
金銭的な請求は碧にされていたのかどうかも、むつみ自身は知らない。
そんな事はやめたほうがいいと気付いてからは、新堂の家で服を選ぶ事はやめていた。だけど今回に関しては、どちらもいらない、と答える事が出来ず、自分のお小遣いで買える値段だろうか?と少々不安に思いながらも選んだ。
杏依が選んだ服を着てみたいと思うが、それを晴己が許してくれるとは思えなかった。
短い丈の服を着たこともないし、晴己が選んだ事もない。晴己が選んだブラウンのスカートは膝が隠れる長さだった。
ブラウンの色を持っていない、と言ったむつみの言葉を、杏依は疑うことなく受け取ってくれただろうか?
短いスカートを選ばなかったのだから、晴己は納得してくれただろうか?

2人とも傷つけずに済んだだろうか、そんな事を考えながら、むつみは部屋を出た。