りなりあ

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約束を抱いて 第二章-13

2007-01-06 10:00:17 | 約束を抱いて 第二章

優輝に怪我をさせてしまった事は、むつみ自身を責め続けていた。例えテニスを続ける事を決めたとしても、試合に優勝したとしても、彼の貴重な時間を奪ってしまった事実は消えない。
優輝に嫌われているのは自覚している。怪我だけでなく、その後も迷惑をかけたのだから当然だし、直接言葉を投げつけられた事もある。
分かっていながら、優輝への想いが募る自分の気持ちに戸惑う。

「邪魔ばかりしてごめんね。これで最後にするから。」
同じ学校で、同じクラスだから、会わないでいる事は無理だけれど、クラスメイトという関係だけに徹しようと、むつみは考えていた。
「でも、これだけは許してくれる?」
優輝はむつみを見ているけれど、何の反応もない。
「優輝君が夢を掴むのを、応援していてもいい?」
遠くで応援している事ぐらいは許してもらえるだろうか?
二度とこうして話すことはなくても、想いを口にする事はなくても、初めて会った時に惹かれた彼の姿を追い続けたかった。
「それも…だめかな?」
むつみは目を伏せる。
体中が優輝への想いに占領されている。
好きと言う言葉をもっともっと言いたい。
自分にはそんな資格はないのに、図々しい事を考えていると分かっているのに、罪悪感を感じながらも、むつみの想いは優輝へと向いていた。
「弁当…自分で作るんだろ?」
俯いているむつみの頭上で声がした。
むつみの問いとは関係のない内容に驚いて、彼女は顔を上げる。
「全部…じゃないけれど…。和枝さんが、あの、お手伝いさんが、前日に用意してくれているから、私は朝、足りない分を作る…だけ。」
和枝が作る品数は、少しずつ減ってきているし、確実に前日に用意されているわけではない。それだけ、和枝は仕事が大変になってきているようだった。
「それなら、その人に全部作ってもらえばいいだろ?」
「えっと、でも…。」
「そんな事していたら、朝は…公園に来れないだろ?」
急な話の変化に、むつみは言葉を詰まらせる。
「久保コーチが言ってただろ?練習見に来いって。」
随分と前に久保に言われた事を思い出す。
そして、優輝にも『どうして練習、見に来ないんだ?』と問われた事を思い出した。
「平日は、今まで通り久保コーチと練習するけれど、休みの日は、これからはクラブに通うから。」
「え?」
優輝の頬が、安心感で緩む。
「戻る事にした。クラブに。」
その言葉を聞いて、むつみも笑顔になっていく。
「毎日クラブに通うのは、今の家だと無理だから、土曜日から晴己さんの家に泊まることになった。」
「はる兄の家から?」
「晴己さんが、そうするように言ってくれた。凄く…嬉しかった。」
優輝の顔が、再び綻ぶ。
「斉藤さんは、晴己さんの家に…よく行くんだろ?」
顔を上げた優輝がむつみを見る。
小さな頃と比べれば格段に頻度は落ちているし、最近は杏依との事で新堂の家に行くのを避けていた。
でも、それを説明するのが難しくて、むつみは返答に困る。
「俺は休みの日は新堂の家にいるから。」
優輝が告げるとチャイムの音が響き、むつみは時計を見た。
昨日と同じ時間のチャイムが鳴り響いている。
優輝は机の上のカップケーキを鞄へと詰めなおすと立ち上がった。
「あの…優輝君?」
むつみは座ったまま優輝を見上げた。
授業が始まるから仕方がないけれど、会話は中途半端に終わっている気がする。
「じゃ、先に戻るから。」
笑顔で立ち去る優輝の背中を、むつみは不思議な想いで見送った。