りなりあ

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約束を抱いて-21

2006-10-20 13:23:17 | 約束を抱いて 第一章

「なるほどねぇ。」
腕を組んで考え込んでいる久保は、それでも顔に笑みを浮かべている。
「なにがだよ。」
優輝は軽く久保を睨みつけると、再びストレッチを開始する。そんな優輝の周りを久保はニヤニヤと笑いながら歩いていた。ジロジロと優輝の身体を見ている。
「そのまんま、おっさんじゃん。ジロジロ見るなよ。」
「何言ってんだ?これが俺の仕事だよ。」
優輝は離れた場所に座っているむつみを気にしながらも、身体をほぐしていく。
「止められないな、テニス。」
勝ち誇ったような久保の声。
「なんだよっ!俺は次の試合を最後に止める!そう言っただろ?」
むつみが怪我の事を気にしているから
、優輝は次の試合には出る事にした。しかし、それを最後に止める事を、晴己と久保に伝えた。
「止める?絶対に無理だな。いい加減、意地を張るのは終わりにしろ。」
「…っ!俺がどうしようと自由だろ?」
久保は優輝の前に屈むと彼の左腕を掴んだ。
「自由だよ。結局決めるのは優輝自身だ。晴己が言ったって俺が言ったって、決めるのはお前だよ。だけど止めた事で誰かを責めたりするなよ。」
「…」
「止める事で誰かが責められたり、苦しんだり。俺は二度とそういうのは、見たくない。」
「…」
「第一、止められないよ。」
「なんでだよ…」
掴んだ左腕を久保は離さない。
「怪我をして足が不自由でも、それ以外を鍛えただろ?」
「え?」
「…鈍っていると思っていたのに。予想を裏切る奴だな。」
そう言う久保の目は輝いている。
「優輝、もう一度、一緒に目指さないか?」
思い出す。ただまっすぐに自分の夢に向かっていた時を。
「今の優輝を見ても誰も喜ばない。卓也だって…。」
久保は立ち上がると優輝の短い髪をクシャっと撫でる。
優輝は自分の足のテーピングを取り始めた。
「傷はすぐに治るさ。傷跡が残るくらいで、見える箇所じゃないだろ?」
優輝は自分の足首の傷を見て、溜息をつく。
「こんな小さな傷と比べるなよ。消毒液ある?」
「むつみちゃん。俺のかばん持って来て。」
駆け寄ってきたむつみが鞄を久保に渡すと、久保は消毒液を優輝に渡す。
久保は優輝の前に座ると外されたテープを手に取り、ふと思いついて顔を上げた。
「そうだ、むつみちゃん、テーピング覚えてやってよ。」
「「えっ?!」」
優輝とむつみの声が重なる。
「わ、私?」
「そう。同じクラスなんだろ?お父さんお医者さんだし、ってまぁ関係ないけど、むつみちゃん自身器用だからさ。」
怪我の原因を作ったむつみがするのは、当然といえば当然かもしれない。
「…いいよ、自分でやるから。」
だけど、思った通り優輝は拒絶する。
「おーい優輝?だからぁ。自分では無理だよ。」
「嫌だ。」
「おっまえ、生意気な奴だな。まぁいいや、むつみちゃん、ここに座って。教えるから。」
「…はい。」
戸惑いながらも久保に促されてむつみは優輝の前に座ろうとした。
「嫌だって言ってるだろっ!!」
優輝の怒鳴り声にむつみはビクリとする。
「おい!優輝、なに我が侭を言ってる?こんな大事な時期に自分の不注意で捻挫したんだろっ?」
「違うの!!」
むつみが久保に叫ぶ。
「違うの、私のせいなの!」
やはり久保は晴己から何も聞いていないのだ。
「むつみちゃん?」
「優輝君は私を助けてくれたの。だから怪我したの!」
久保を見上げた瞬間、涙が落ちる。
「むつみちゃん?」
「…っだから、私に手当てして欲しくない…と、思う…」
自分で言ってその内容に傷つきながら、だけど事実なのだと認める。
保健室での出来事は、無理強いに近かったと、むつみは自分で分かっていた。だけど、それをまた繰り返すのは怖い。
「ごめんなさい。」
何度言っても、言い足りないと思うその言葉。
どれだけ償っても、優輝のこの貴重な時間を奪ってしまった自分を責めてしまう。
「むつみちゃん!」
久保は、走り去るむつみを、慌てて追いかけた。



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