りなりあ

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約束を抱いて 第三章-20

2007-09-04 09:35:54 | 約束を抱いて 第三章

「ただいま。」
久保の車で帰宅したむつみを和枝が迎えてくれた。
「おかえりなさい。久保さん、橋元君どうぞ。」
「いいえ。ここで結構です。すぐに優輝を送っていきますから。な、優輝。」
和枝の誘いを久保は断り、優輝も仕方なく頷く。
「むつみちゃん、お弁当ありがとう。毎日は大変だけど、でも時々今日みたいにお弁当を届けてくれれば」
「図々しいんだよ、コーチは。」
優輝の言葉に久保は呆れ、和枝は微笑ましくて笑う。
玄関で久保と優輝を見送った後、むつみは弁当箱を両手で抱えた。むつみも彼らと一緒に弁当を食べた為、三人分を詰めた箱は大きく、今は軽くなっているが持って行く時は結構重かったことを思い出した。
「むつみちゃん、私がしますよ。」
「大丈夫よ和枝さん。自分でするわ。」
シンクに弁当箱を置いて、むつみは水を出した。
和枝は、むつみに任せることした。むつみが優輝の為に何かをしている時は本当に幸せそうで、和枝も嬉しくなるからだ。
「まぁ、あれだけの量があったのに綺麗に全部…。」
和枝が驚き、そして笑う。
「和枝さん。」
洗い終えたむつみがタオルで手を拭きながら問う。
「お料理の本は他にもあるの?」
むつみと和枝は同じ戸棚に視線を向けた。
そこにはむつみが参考にしている本が入っている。
「ありますよ。書庫に。昔の本などは書庫に移動させています。見てみますか?」
「うん。」
和枝に連れられて、むつみは書庫へと向う。
むつみは、滅多に書庫に入らないし、書庫の鍵の置き場も知らなかった。

和枝に鍵を開けてもらい室内に入ると、天井まで届く高さの本棚が並んでいて本が詰まっている。
本屋に行く方が、新しい物を見れるのは分かっているが、少し興味があり参考にしようと思っただけだった。しかし本屋に行く方が、すぐに目的の本を見つけられそうな気がするくらいに大量の本が書庫にはあった。
「下のほうだと思いますよ?高い位置は先生の医学書が主ですから。」
言われてむつみは、上の方を見た。
分厚い参考書や日本語で表記されていない本が並んでいて、むつみが手を伸ばしても届かない高さだ。
むつみが下部へ視線を移すと、幅の狭い背表紙の本が並んでいる。
むつみは身を屈めて並んでいる本を眺めた。

◇◇◇

むつみは書庫から持ってきた本を見ていた。
子供用の弁当を掲載した本は、可愛いと思うし手が凝っていると思うが、これを優輝が喜ぶとは思えなかった。
むつみ自身も、これを作ってみたいとか持って行きたいとか食べたいとか思えなくて、そんな自分が少し悲しくなる。
「あら、むつみ。どうしたの?」
むつみが見ている本を見て、帰宅した碧が問いかけた。
「和枝さんにお願いして書庫に取りに行ったの。」
「そう。懐かしいわね。むつみが小さな頃の本でしょう?」
碧に和枝がお茶を出し、むつみの湯飲みにも注いでくれる。
「和枝さん、しばらくは遅い日が続いてしまうわ。」
映画の撮影が始まった碧は、撮影現場の近くのホテルに部屋を用意してある。出来るだけ自宅に戻るように努めるつもりだが、どうしても帰宅できない日もある。そんな日は和枝に泊まってもらう事になっている。
「やはり、新しい人に来てもらうべきよね。」
碧の困ったような声を聞きながら、むつみは再び料理の本を見た。
家政婦に関する話に、口出しをするのは戸惑ってしまう。むつみを1人にしない為に話し合っているのだと分かっているから、自分は大丈夫だと意思表示をしたいと思うが、それを碧が受け入れてくれるとは思えない。
「この映画の前に決めたかったけれど。」
今回の映画の仕事を、碧はどうしても引き受けたかった。その撮影に間に合うように新しい家政婦を探していたが、時間が間に合わなかった。
瑠璃に来てもらっている事で随分と助かっているのは事実だが、彼女はむつみの“世話係”に近い存在だ。
家の家事を全て任せられて、住み込みも可能な女性を碧は必要としていた。



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