りなりあ

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約束を抱いて 第三章-21

2007-09-05 14:52:44 | 約束を抱いて 第三章

むつみは瑠璃を慕い始めている。
今の状況なら、家政婦として雇う新しい人とむつみの関係を重要視する必要はないかもしれない、と碧は思っていた。
「むつみ、今週末は晴己さんの家に泊まらせてもらえるかしら?」
料理の本を見ていたむつみの視線が戸惑っていて、素直に頷けない事に、碧は気付く。
「週末は帰宅するのが難しそうだから。晴己さんには私からお願いするわ。むつみは大丈夫?」
むつみに拒む理由などないし、碧の依頼を晴己が拒む理由もない。
「むつみは2週間ぶり?赤ちゃんは大きくなってるわよ?」
「…そうなの?」
「毎日表情が変わっていくもの。楽しみね。」
むつみの耳の奥に、泣き声が思い出される。
「…また、泣かれちゃうかも…。」
「大丈夫よ。泣くのが仕事だもの。」
碧の明るい声にむつみは少し気持ちが落ち着くが、また心が騒がしくなる。
消えない泣き声は、むつみの心を不安にさせていった。

◇◇◇

「ただいま。和枝さん車が?」
むつみは玄関に置かれている靴を見て確信する。
「晴己様ですよ。」
駐車場に新堂の車が停まっていたから予想はしていたが、晴己がこの家を訪ねるのは随分と久しぶりだった。
「…お客様?」
晴己の靴以外にも女性用の靴が置かれていて、むつみは首を傾げた。
「杏依さん…じゃないよね?」
シンプルな形の黒い靴は杏依が普段利用するタイプではない気がする。
「おかえり、むつみちゃん。」
奥のドアが開いて晴己が歩いてくる。
「ただいま。はる兄?」
久しぶりに見る彼のエプロン姿に、むつみは再び首を傾げた。
「おかえりなさいませ。むつみさん。」
続いて晴己の後ろから、2人の女性が顔を出す。
「た、ただいま。」
状況が分からなくて和枝に助けを求める。
「新堂で働く者です。」
言われて彼女達を見ると、確かに見覚えがある。
「少し台所を借りたくてね。瑠璃さんには休んでもらっているし、手伝いの為に2人を。」
にこやかに話されても、むつみは状況が分からない。しかし、晴己は楽しそうだった。
「はる兄、何か作っているの?」
話しながらキッチンへ向かい、その扉を開ける。
「え?」
振り向いて和枝を見ると、彼女が肩をすくめた。
「こんなに…たくさん?」
「7時には出来ると思うよ。それまで宿題を済ませたら?」
「…うん。」
晴己がキッチンに戻り手を動かし始め、新堂の家政婦達も、その手伝いを始めていく。
晴己が料理をする姿を見るのは久しぶりだった。
仕事もあるし、以前よりも忙しくなっているのに、突然来た意味が分からなくて、むつみは考えを巡らせた。
もしかすると、昨日の事で怒っているのだろうか?
久保に送ってもらえば問題はないと思ったのだが、晴己は納得出来なかったのだろうか?
「…はる兄。昨日ね。」

「優輝の練習を見に行ったんだってね。喜んでいたよ。久保さんも優輝も。」
既に晴己は知っていたようで、笑顔を絶やさない。
「えっと。今週末は」
「来るんだよね?碧さんから連絡をもらったよ。杏依も喜んでいるから楽しみだね。」
むつみはキッチンのドアを閉めた。
「…和枝さん?」
むつみは和枝に問う。
「何か、あったのかな?」
きっと何かあったのだろう。
それを隠す為に微笑む晴己。
むつみには晴己の表情の違いが分かる。
どんなに笑顔でも怖い時もあるし、寂しそうな時もある。
だけど、こんな彼を見るのは久しぶりだった。
「好きにさせてあげてください。晴己様の勝手な我が侭ですよ。昼から、ずっと…ですから。」
「え?昼から?お仕事は?」
「晴己様の立場なら、少々時間に自由がありますが、自分の立場を分かっていない部分もあるので困ります。」
「…和枝さん。」
「でも今日だけは許してあげてください。こんな事…久しぶりでしょう?」
和枝に言われて、むつみは記憶を辿った。



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