りなりあ

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指先の記憶 第二章-35-

2009-05-08 01:28:01 | 指先の記憶 第二章

歩いて走って、たくさん食べて、雅司君の笑顔と瞳は、キラキラと輝いていた。
普段以上に楽しそうで、よく笑う。
とても幸せそうだけれど、この状態は興奮気味、と表現するのが正しいような気がする。
「この状態だと、雅司君すぐに眠りそうだね。」
ベンチに座った私は、少し呆れる気持ちを感じながら落ち着きなく動く雅司君を見ていた。
「ずっと、こんな感じだったの?1週間も。」
気持ちが言葉に表れてしまって、ちょっと嫌味っぽい口調になってしまった事を悔みながら、隣に座る須賀君を見た。
「最初の2日は、こんな感じ。」
須賀君は雅司君を見ながら、とても穏やかな表情をしていた。
そんな彼の心の内と、私の心が正反対な気がして、また後悔した。
須賀君と過せる日々を雅司君が喜び、それが興奮状態に繋がる事に、妙な抵抗を感じてしまう自分が情けない。
「2日だけ?3日目からは?やっぱり雅司君も疲れたのかなぁ。疲れるよねぇ。この状態だと。明日も同じなのかなぁ。疲れないのかなぁ。」
言いながら、また自分の言葉が嫌になる。
「熟睡したんだろ、たぶん。」
「え?」
「昨日。姫野と一緒に寝て熟睡したから今日は元気なんだろ、たぶん。」
「…今日も…一緒なのかなぁ…。私は熟睡できない、のに。」
「そうか?充分、寝ました、って顔してたぞ?」
「それは…雅司君が一緒だなんて知らなかったし、気付かなかったし、分かった状態で寝るのって、寝返りとか…気になるし。」
「二人とも寝相が悪いから、お互い様だろ。」
私の文句を、須賀君は適当に処理していく。
「にぃ!」
雅司君が手を振っている。
須賀君が手を振り返すと、雅司君が駆け寄ってきた。
「姫野が来て喜んでいるんだよ。明日の昼頃には落ち着くと思うから、もう少し我慢して。」
「…え?」
雅司君が須賀君の膝に両手を乗せた。
「にぃ あつい」
雅司君の額に汗が流れている。
座っているだけでも暑いのだから、走り回れば尚更だ。
「帰ったらシャワー浴びような。」
「うん」
須賀君が雅司君の汗をタオルで拭う。
「それからお昼寝して」
「おひるねして」
「その間、にぃちゃんは買物に行ってくるから」
「かいもの」
「雅司は何が食べたい?」
「にぃのごはん」
何が、と問われたのだから、メニューで答えるべき。
その言葉は、どうにか飲み込むことができた。
「にぃのごはん すき」
太陽の陽射しが強い。
眩しさに目を閉じたくなる。
「よしみは?」
「え?」

呼ばれて視線を向けると、雅司君は須賀君の膝の上に座ろうとしていた。
そんなに密着して…暑くないのかな?
「よしみは にぃ の ごはん なにが すき?」
屈託のない笑顔が私に問う。
でも、私は。
“ぼくは にぃと なかよしだよ”
そう言われている気がした。

◇◇◇


カレンさんの家に到着すると、聞き覚えのない声が、私の耳に届いた。
「お帰り~。雅司君、お帰り。」
知らない女性が姿を見せて、体を屈めると雅司君に頬擦りした。
「この子が好美ちゃん?」
姿勢を戻した彼女は、私よりも身長が高く、それに気付いた彼女は再び少し体を屈めた。
そして、私の左手を両手で包む。
「はじめまして。」
はじめまして、たぶん、きっとそうだと思う。
私は彼女の顔に見覚えなどなくて、でも、この妙に親しそうに手を握るのはどうしてなのだろう?
「私、三津屋響子。姫野好美さんでしょ?噂は聞いているわ。カレンさんと康太から。」
彼女が康太、と呼んだ事に、私は眉をひそめてしまった。
「気にするような内容じゃないから安心して。2人ともあなたの話ばかりしているから。自然と色々と知っちゃったの。と言っても、サッカー部のマネージャーをしてるとか、その程度。」
彼女は私が自分の事を勝手に話題にされている事に嫌悪を抱いたのだと感じたようだった。
本当は、そんな事どうでもよくて、それよりも、どうして康太、なのか、それが気になるけれど、そんな事、問うことはできない。



2 コメント

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Unknown (まこと)
2009-05-17 20:04:06
お久しぶりです♡
がんばってくださいね!!
応援してます♪
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ありがとうございます (みのり)
2009-05-27 02:28:26
まことさん

コメント、そして読んでいただいてありがとうございます。
うまくまとめる事ができず、話を進められず…。
でも、がんばりますね!
応援、ありがとうございます。
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