りなりあ

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指先の記憶 第二章-8-

2008-10-29 23:09:25 | 指先の記憶 第二章

私は、この顔触れを客観的に見て、そして共通点を探してみた。
もちろん同じ中学出身だけれど、今まで特に接点はなかったのに。
「…あ。」
「どうしたの?姫野さん?」
瑠璃先輩の問いに、私は瞬きを返した。
「…杏依ちゃんの…先生達…だ。」
ここに松原先輩が加われば、ファンクラブの人達が羨ましいと話していた、“あの頃”が再現される。
「そうね…そういえば。須賀君が借り出された時もあったわよね。あの時は驚いたわよ。松原君が下級生を連れてきて、あーぁ、杏依の学力も相当なもんだと思ったわ。」
「酷~い。瑠璃ちゃん。」
言いながら杏依ちゃんは新発売のチョコの箱を開けようとする。
「酷いって、こっちが言いたいわよ。大変だったんだから。杏依ったら集中力が続かないし。それなのに」
須賀君が杏依ちゃんからチョコの箱を取り上げる。
「新堂さんに家庭教師をお願いしてから、成績上がっちゃうし。私達の努力は何って感じよね?小野寺君。」
弘先輩はクッキーの箱を開けようとしていたけれど、それも須賀君は取り上げた。
「そらまめいがいにも、なにか、たべもの、だしましょーか?」
1人だけ立ち上がっていた須賀君が、私達を見下ろしていた。
「…怖いよ。須賀君。棒読みだし。」
怒っているんだろうなぁ。
私が遅くなってしまったから、冷蔵庫の残り物で作ったみたいだし、予定通りいかなくて機嫌が悪そう。
「食べたい、食べたーい。何があるの?康太君。」
杏依ちゃんには、須賀君の機嫌の悪さなんて関係ないみたい。
そんな上機嫌の杏依ちゃんに須賀君は返事をせずに、台所へと入る。
「…ねぇ、姫野さん。」
「はい。」
瑠璃先輩が机の上に散乱しているお菓子の箱を、スーパーの袋に戻していく。
「…ここは、姫野さんの家、よね?」
「はい。そうです。」
暫くして漂ってくる香りに、須賀君の答えを聞かなくても夕食のメニューが全員に分かった。

◇◇◇

「…明日の為に準備していたカレー…で我慢してください。」
須賀君の言葉と共に、食卓に人数分のカレーが置かれた。
「明日?じゃ、今日の夜は、どうするつもりだったの?」
瑠璃先輩が問う。
「夜の材料は姫野が帰ってくるのが遅いから。待っていられなかったんです。台所にあるもので作るしかなくって、瑠璃先輩から貰ったソラマメと、ゴボウでキンピラ作って。後は味噌汁でもしようと思ったけれど、俺、あの味噌、好きじゃないし。明日は忙しいからカレーを作っておこうと思って準備しておいて。キャベツあるから、それをどうしようと考えていた最中に香坂先輩が来るし。結局、この人数だったらカレーも出さなきゃ、足りないじゃないですか?」
「あ、あのさ…須賀君。食事…誘ったの須賀君だよ?」
決して、先輩達は夕食をねだっていた訳ではないと思う。
「食べ物出さなきゃ、菓子ばっかり食べるじゃねぇーか。この2人。」
指をささないでよ、先輩に向かって。
「いただきまーす。」
それなのに、杏依ちゃんは何も気にせずスプーンを手に取る。
「おいしい!」
杏依ちゃんの笑顔を見ていると、なんだか色んな事が、どうでも良くなってしまう。
それは須賀君も感じたみたいで、彼は溜息を出した後に、カレーを食べ始めた。
「須賀君って、料理上手なのね。」
瑠璃先輩の言葉に、須賀君は顔を上げるけれど何も答えなかった。
「姫野さん。須賀君の得意料理って何?」
瑠璃先輩の問いに、私は首を傾げて、この1ヶ月を思い出してみた。
杏依ちゃんに絵本を読んでもらった日に作ってくれたオムライス。
そういえば、私の誕生日に作ってくれたケーキも美味しかった。
「えーと…。」

たくさんありすぎて、何が得意料理なのだろうと考えていたら。
「姫野。早く食べろ。」
冷たい命令口調が、私の思考を中断させる。
「瑠璃先輩も、早く冷めないうちに」
「須賀君。」
須賀君の言葉を、瑠璃先輩が止めた。
「御心配なく。言わないわよ、今日のこと。」

須賀君が瑠璃先輩を見て、そして2人は視線を逸らさない。
そんな2人の向こうで、杏依ちゃんと弘先輩は、美味しそうに須賀君手製のカレーを食べていた。



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