りなりあ

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約束を抱いて 第四章-4

2008-02-22 16:49:31 | 約束を抱いて 第四章

「関わる?」
涼はパーティ会場を見渡した。
「もちろん、涼君も関わる事になる人が多いと思うわ。あなたが選んだ仕事を考えると、ね?」
涼は思わず姿勢を正していた。
「先ずは、むつみちゃんと話している人達から。」
涼は多くの人の向こうに見える姿を探す。
「むつみちゃんの両親と香坂夫妻、か?」
「そして、碧さんが出演する映画のスタッフ達。」
涼の瞳が興味を持っていた。今後、仕事で彼等と関わる事があるかもしれないからだ。
「音楽担当が杏依さんの実父香坂純也さん。他に脚本家、出演者。そして」
「え?卓也?」
「そうよ。出るのよ、その映画に。初めは冗談かと思ったけれど、随分と順調に芸能活動をしているみたい。そして、卓也君の隣に立っているのが監督。星碧と昔から親しくて、彼が初監督をする時には是非自分が、と星碧が張り切っていたらしいわ。」
「ふーん。」
涼は星碧と監督の事よりも、卓也の事が気になっていた。卓也もテニスをしていたから晴己と面識がある。このパーティに来ていても変ではない。だが、涼は直接卓也に今日の事を尋ねたわけではないし、卓也が来ることも予想していなかった。
「テニスクラブに通っている子供達もいるでしょ。」
奈々江に言われた涼が周囲を見ると、見覚えのある顔を見つける事が出来、卓也が来ていることも理解できた。
「クラブの事は直樹に聞きましょう。」
奈々江が離れた場所にいる直樹へと視線を送る。
そこには、哲也と話す直樹の姿がある。そして、奈々江に気付いた大輔が、直樹に耳打ちしているのが見える。
「直樹と一緒にいる2人は分かるわよね?」
「はい。晴己の従弟ですよね。大学が同じですから。」
晴己の従弟達とは面識がある。
「他の“いとこ”は…ちょっと姿が見えないわね。」
「奈々江さん。直樹はテニスをしてました?もちろん以前はやっていたと思いますが…。」
「晴己の相手が出来る程度、にはね。だから晴己がやめた時に直樹はやめているわ。直樹はテニスが好きな訳でも嫌いな訳でもない。晴己の付き添いよ。テニスクラブの子供達と親しいのは、哲也と大輔ね。」
視線を動かしていた奈々江の元に、直樹がやってくる。
「涼。どう?パーティの居心地。」
そう問われると、居心地が悪いと答えたほうが良いのかと思ってしまう。
「直樹。晴己がテニスクラブを辞めたのは随分と前なのに、どうして、こんなにテニス関係の人達が多いの?」
「辞めたといっても無関係になった訳じゃないからね。SINDOは寄付もしているし、晴己は練習や試合を観に行くこともある。晴己は今も変わらず、若い選手達の憧れだよ。」
「こんな風に子供が集まると、雰囲気が和みますね。」
涼が本心から思った言葉に、奈々江と直樹が噴出す。
「それも狙いのひとつかもね。こんな風に大人達が集まる中に、純粋にテニスを楽しんでいる子供達がいるのは救われるわ。それじゃ、その子供達を追いかけているのは」
「「久保翔太。」」
涼と直樹の声が重なった。
「なぁに?2人とも。」
「だってさぁ。騒がしいんだよ久保コーチは。俺が晴己を待っている間、ずーっと話しかけてきたり。」
「そうそう。俺も優輝を迎えに行ったら、今日の優輝の調子を延々と話すし、日曜の朝早くから優輝を迎えに来たり。それは有難かったけれど。こっちは眠いのに朝から大声で。」
涼は直樹と目を合わし、自分と同じ経験をしていた事を初めて知った。

直樹と話す時、涼は晴己の事を避ける話題を選んでいた。
だからこそ、涼は直樹と友人関係を築く事が出来たのだと思う。
「それだけ満たされていたのよ、久保さんは。テニスを教えるのが楽しくて、強くなっていく選手を育てるのが嬉しくて。負けても立ち止まっても、その先にある目標に向かって、新たに進んでいく“彼等”を見て、満たされていたのよ。」
「姉さん?」
「新堂晴己と橋元優輝。久保さんが自分の時間を全て割いて希望を託した存在。選手を支えてくれるあなた達がいてくれた事、久保さんは心強かったと思うわ。気が合うんじゃないの?涼君と直樹。」
そんな風に言われて、涼は急に恥ずかしくなった。