夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

本は、これから。

2014年08月11日 | 映画(番外編:映画と読み物)
昭和5年生まれの私の父は、土木や設計が専門であるにもかかわらず、
持ち家にいっさい興味を示しませんでした。
秋田から東京へ、そして大阪へ出てきた父は母と結婚。
家族が増えることになり、もう少し広い家に引っ越そうと思ったのでしょうが、
家を買う気はまったくなく、賃貸物件を物色。

父が家選びのさいに最重視するのは、地震と水害に強い土地であるということ。
大阪府池田市には父のお眼鏡に適う地区が2つあり、
うち1つに決めて、私たち家族はほぼ30年、そこで暮らしました。

3DKの平屋で、たいして広くもなければ日当たりも良くない。
そのくせトイレは男子用と女子用の便器がそれぞれある。
なにより私が好きだったのは、庭でした。

玄関左手には大きなヒイラギの木。右手にはアサガオとアジサイ。
キキョウ、サルビア、ツツジが咲き乱れ、ホオズキでよく遊びました。
奥の部屋の縁側近くのキンモクセイの下では、うちの猫が眠ります。

……って庭自慢じゃないんです。(^^;

無類の本好きの父のせいで、庭のわりにただでさえ広くない家の中が本だらけ。
本棚には入りきらなくて、あっちにもこっちにも本が積み上げられている状態。
来訪した親戚が「東京だったら絶対、地震で本の下敷きになっている」と言ったほど。

大人になってから家賃を聞いたら、一軒家ではあり得ない安さ。
私が結婚して家を出たあと、大家さんが一帯を更地にして他に活用したがっていると聞き、
そらそんな家賃でははよ出て行ってもらいたいやろと納得しました。

両親は茨木市の公団へ引っ越すことに。ほとんど全部の本も一緒に。
来年には85歳になる父は、そろそろ本の整理をはじめたようで、
実家に寄ったらそれを得意げに話していました(笑)。

思いきって処分するという父に、私が読みそうな本があれば残しておいてと依頼。
ひとまず父が「これ、読まないか」と差し出したのが、
2010年に発行された岩波新書の『本は、これから』でした。

電子化が進む世の中で、紙媒体の本はどうなってゆくのか。
書店や古書店、図書館、取次に装丁など、あらゆる形で本に関わってきた人、
そして、自他共に練達を認める本の書き手と読み手の計37人が紡ぐエッセイです。

37人それぞれスタンスがちがうので、紙の本讃歌かと思ったら、
意外にも電子書籍はいいんですよという人もいます。
そういう話を読めば、またしても東野圭吾の『真夏の方程式』を思い出します。
電子書籍を覗きもせずに「駄目」と言ってはいけないなぁと。

書店のある国は栄えるという話が面白いと思いました。
何十年も前、ベトナムを旅したという池上彰氏。
街のあちこちで読書する人の姿を見かけたのだそうです。
そうこうしているうちにベトナムは発展、
それに対してラオスには書店がまったくないのだそうな。
あ、ダンナにこの話をしたら、タイには書店はあるけれど、そうはならんなぁと。
なぜなら、タイの書店はたいていが大金持ちの道楽で経営されていて、
経営者に売る気もなければ一般庶民に読む気も買う気も起こらないものだから。

紙の本が廃れるわけではなく、本を読むという行為が廃れてきたのだ、
それをなんとかしなくてはならないという話が寂しいけれど、きっとそのとおり。
だけど、1冊読めば、はるか何百キロの旅に出たのも同じ。

本は、これから。

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