夜な夜なシネマ

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『画家と庭師とカンパーニュ』

2009年06月15日 | 映画(か行)
『画家と庭師とカンパーニュ』(原題:Dialogue Avec Mon Jardinier)
監督:ジャン・ベッケル
出演:ダニエル・オートゥイユ,ジャン=ピエール・ダルッサン他

フランスの作品。
監督は、巨匠ジャック・ベッケルの息子、ジャン・ベッケル。
同監督の作品を観るのは、『クリクリのいた夏』(1999)、『ピエロの赤い鼻』(2003)、
そして本作の3本ですが、どれも大好き。

都会の暮らしに疲れ果てた売れっ子画家が、
数十年ぶりに故郷のカンパーニュ地方に帰る。
両親はすでに亡くなり、実家である屋敷は荒れ放題。
庭の手入れのために庭師を雇ったところ、
やって来たのは小学校時代の同級生。

当時、先生にこっぴどく叱られたいたずらや、
卒業してからこれまでの出来事について語り合うふたり。
好きな姓を名乗れるなら何がいいかという話で盛り上がり、
お互いをキャンバス(実際はPinceau=絵筆)、ジャルダン(Jardin=庭)と呼ぶことに。

原題は“Dialogue avec mon Jardinier”で、直訳すると「庭師との会話」。
そのとおり、彼らの会話のみで進行すると言っても過言ではないので、
観る人によっては退屈きわまりないかもしれません。
でも、こんな人生を見つめ直す時間があってもいいなぁ。

画家は経済的に恵まれていながら、幸せが見えません。
妻とは離婚調停中、娘は画家と同年代の男と結婚すると言います。
こうして家族との関係でストレスを抱えているうえに、
顧客の依頼で描きたくもないものを描いているから、
絵を描いている時間がちっとも楽しくない。
唯一、心をさらけ出せる庭師に、みずから絵の感想を求めたくせに、
「楽しそうな絵だ」と言われると腹を立ててしまいます。

そんなふうに理不尽な怒りに遭っても、無邪気なのか無神経なのか、
庭師は相変わらず屈託のない顔。
長年勤めていた国鉄を退職して、念願の庭師となった彼は、
どんな小さな幸せもしっかりと感じ取っているよう。

終盤、腹部の痛みを訴える庭師が、画家の紹介する都会の病院を以てしても、
すでに手遅れの病にかかっていることが明らかになります。
それでも菜園へと出かける庭師。「なぜそこまでして」と尋ねる画家に、
「菜園は僕の人生だから。庭師に添い寝されれば、野菜も喜ぶ」。

ラストの展覧会には思わずニッコリ。
画家の数々の絵は庭師のリクエストどおり、
お日さまをいっぱい浴びた絵。

死んだら、空よりも土の下がいい。
根があれば僕は迷わないから。
人は土から育つ。

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