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『月』

2024年03月22日 | 映画(た行)
『月』
監督:石井裕也
出演:宮沢りえ,磯村勇斗,大塚ヒロタ,笠原秀幸,板谷由夏,モロ師岡,
   鶴見辰吾,原日出子,高畑淳子,二階堂ふみ,オダギリジョー他
 
見逃していた本作がシアターセブンで上映されているのを知って駆けつけました。
ヘヴィーすぎて、配信やDVDでは観る気になれないと思ったから。
 
石井裕也監督のことは『川の底からこんにちは』(2009)で大好きになりましたが、
たまに観るのを躊躇するほど重い題材で撮るんですよね。
本作は2016(平成28)年に起きた相模原障害者施設殺傷事件をモチーフにしています。
 
東日本大震災に絡めた処女作が大当たりした作家・堂島洋子(宮沢りえ)。
しかし以降は何も書けず、近隣の森の中に佇む知的障害者施設で働きはじめる。
 
夫の昌平(オダギリジョー)は映像作家を目指しているが、なかなか芽が出ず。
このままではいけないと、マンションの管理人の職に就く。
 
洋子の勤務初日に施設内を案内してくれたのは坪内陽子(二階堂ふみ)。
彼女は、自分も洋子のような作家になりたくてネタ探しのためにここに勤めていると言う。
 
重度の知的障害者が入所するこの施設では、虐待が常態化しているなか、
職員の自称さとくん(磯村勇斗)は絵が得意らしく、紙芝居を制作して入所者に見せていたが、
ほかの職員たちから手間が増えるだけだと文句を言われる。
 
ある日、陽子とさとくんを堂島家に招いたところ、
陽子は酔っぱらって洋子の小説を非難するわ、洋子が昌平に内緒にしていたことを暴露するわ。
さとくんが別の話を始めてくれたはいいが、それはさとくんの闇を匂わせる不穏な話で……。
 
モチーフとなっている事件の犯人は津久井やまゆり園の職員・植松聖(さとし)でした。
磯村勇斗演じるさとくんがその役ということになります。
さとくんは、口をきくことのできない障害者を「心のない者」とし、
この世で生きている価値はないとの考えから犯行におよびます。
 
事件前にさとくんと話す機会のあった洋子は、彼の犯行を予測し、
人を傷つけてはいけない、あなたの考えを認めないと憤る一方、
生まれてくる子どもに障害があるとわかれば中絶しようかという思いがよぎって自己嫌悪に陥ります。
洋子と昌平の間には息子がいましたが、先天的な心疾患を持っていたその子は3歳で他界。
夫婦の心の傷は何年経っても癒えることなく、洋子は次の子どもを持つのが不安だから。
出生前診断で胎児の異常がわかれば95%以上の人が中絶を選ぶという事実。
 
さとくんの犯行を許すことはできないけれど、耳元でわけのわからぬ言葉をずっと囁かれ、
唾や糞尿にまみれて患者の世話をしても、月給は手取り17万円。
陽子が言うように、まともな思考を持てなくなっても仕方ないと思わなくもない。
酷い施設だとわかっていても、よそはどこも受け入れてくれないから致し方ないと考える家族。
寝たきりの入所者の母親役、高畑淳子の叫びが胸に突き刺さります。
 
フィクションとは思えない状態に、なんとかならないものかと考える。
考えても何にもしない。私も同罪です。
 
余談ですが、「出生」は「しゅっしょう」と読むのが正しかったはずですが、これはもう過去のことなのか。
最近映画やテレビで「しゅっせい」と読まれることのほうが多い。
また、「他人事」も「ひとごと」ではなくて「たにんごと」と読むのが普通になっているようで、
そんな台詞を耳にするたびに、こうして読み方は変わって行ってしまうのかなぁと思うのでした。

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