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『正欲』

2023年11月19日 | 映画(さ行)
『正欲』
監督:岸善幸
出演:稲垣吾郎,新垣結衣,磯村勇斗,佐藤寛太,東野絢香,山田真歩,
   宇野祥平,渡辺大知,徳永えり,岩瀬亮,坂東希,山本浩司他
 
イオンシネマ茨木にて。
 
原作は朝井リョウの同名ベストセラー小説ですが、これも未読だなぁ。
面白かったというのか、とても興味深かったので、早速文庫本を注文しました。
 
どこからあらすじを書けばいいのか。
登場人物それぞれの視点からの章仕立てになっています。
 
まず最初に登場するのはサラリーマンの佐々木佳道(磯村勇斗)。
会社の食堂の給水器前、コップから溢れる水をぼんやりと見つめる彼の姿が印象的。
世の中には情報が多すぎる。
そしてその情報はすべて、明日も生きたいと思う人のための者。
死んでしまいたいと思っている人のための情報はない。
 
佳道と同様に考えていると思われるのが家具店に勤める桐生夏月(新垣結衣)で、
このふたりは「水」に対して「普通の人」とは異なる感情を抱いています。
水を見つめること、水に触れることで興奮をおぼえる。
人間に対しては性的欲望を抱けないのに、水にはそういった欲望を持つ。
 
大学生の神戸八重子(東野絢香)は男性恐怖症で、男性と話すことはできず、
男性に少しでも触れられようものなら過呼吸を起こしてしまいます。
そんな彼女が同じ大学に通う諸橋大也(佐藤寛太)とだけは普通にしゃべれる。
けれど、大也のほうは八重子にまるで興味がないらしく、とてもつれない。
実は大也も佳道や夏月と同じく水こそがその対象。
 
寺井啓喜(稲垣吾郎)は検察庁に勤務する検事
不登校になった一人息子の気持ちをまったく理解できません。
息子を賢明にかばう妻(山田真歩)の気持ちもわからず、
フリースクールの指導者と共に動画撮影を始めた妻と息子に嫌悪感を募らせています。
 
こんな登場人物たちの人生が少しずつ交錯。
新垣結衣の表情が今まで見たこともないほど暗くて、こんな演技もできるんだと驚愕。
そうだったからこそ、彼女と中学時代に同級生だった佳道が再会した後に、
自分たちのことをカムフラージュするために結婚することを選び、
明るい笑顔が見られるようになるのは嬉しいこと。
「わかりあえる人と一緒に暮らしています」、その言葉がどれだけ光に溢れていることか。
 
水に興奮するなんて、あり得ないと断言する検事。
自分がどんな人間かをひた隠しにし、誰にもばれないように生きてきたその生き様を
「あり得ない」と決めつけるなんて、してはいけないこと。
そういう人もいるのだということを理解しようとする検事の補佐役、宇野祥平は、
台詞は多くなくても、まなざしに戸惑いと優しさが感じられます。
 
自分と違う指向、嗜好、思考の人を駄目だと決めつけることがないように。
「いなくならないから」、最後の言葉に救われる。

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