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三羽省吾の『路地裏ビルヂング』

2016年01月13日 | 映画(番外編:映画と読み物)
昨年「大人買い」してしまった作家3人のうちの1人、三羽省吾
あとの2人である高野秀行と山本幸久に比べると著作が少なく9冊。
うち8冊はすでに文庫化していて、それらをすべて買いました。
薄めのものから読んでいたら、残るは分厚いものばかり。
そろそろ着手してみるかと手に取ったのが『路地裏ビルヂング』です。

雨で道がぬかるめば、人の行き来がままならず、
立ち止まって譲り合わねばならぬほど狭い路地に建つ“辻堂ビルヂング”。
ビルジングではなく、ビルヂングです。
築半世紀は経っているであろう、6階建てのくせして隣の5階建てより小さい雑居ビル。
そんなおんぼろ辻堂ビルヂングのフロア毎に1章ずつ、6章から成る連作小説。
1階から6階という順番の章仕立てではありません。

5階、健康食品販売会社、主人公は元フリーター・加藤。
2階、無認可保育園、主人公は五十路の保母・種田。
3階、学習塾、主人公は司法書士を目指す講師・大貫。
4階、不動産屋、主人公は共働きで子どものいないOL・桜井。
6階、広告制作プロダクション、主人公は元野球部員・江草。

そして1階は章が進むたびに売るものが変わる料理屋です。
1章から順にその遍歴を追うと、おでん屋→カレー屋→お好み焼き屋→ホルモン焼き屋となり、
5章ではおでんもカレーもお好み焼きもホルモン焼きも出すというコンプリート店。
ただしそのどれもが超絶まずく、まずさの確認にリピート客が出るほど。
店員はずっと同じ、国籍不明の外国人。
いつまで経っても日本語が上手くならず、「オマエラ、ナニ召シ上ガリマスカ」。

主人公に限らず、登場人物の誰もが魅力的です。
おとなは何のために働いているんだろうと思い、
こどもはどうして勉強しているんだろうと思う。
誰も見てくれてやしないと思っていても、
こうして見てくれている人だっているんだよ。そんなふうに思えます。
6階の章では思わずウルッと来ました。

私はやっぱりこの著者が大好きです。
「クララが立ったくらいの朗報だったということだ」という言い回しにふきだし、
「つまり、私の生活に足りないのはドラマチックな出来事ではなくて、
それを感じ取る感性なのだと思う」という一文にうなずき。

1階の主人公が誰なのかは読んでからのお楽しみということで。
あったかいです。

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