minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

mina外伝(その6)

2005年03月12日 | mina外伝
 里美のおじさんの上原耕太郎が予約してくれたホテルは、JR京都駅からタクシーで5分ほどの距離にある某航空会社系列ホテルだった。
「美奈さんが泊まるのなら、僕の大学時代の友達が支配人をしているホテルを予約してあげるよ」
 そう言って、耕太郎は、その場で電話をかけて京都プリンセスホテルに部屋をリザーブしてくれたのだった。里美から聞いて驚いたのだが、耕太郎は京都大学を主席で卒業し、日本考古学界では将来を嘱望された逸材だったという。だから、今でも、京都には知り合いが多いらしい。
 着いてみると、そのホテルは真新しく、上まで吹き抜けの広々としたロビーは、それだけで貧乏性のわたしは足がすくんだ。全身が映りこむほどピカピカに磨き上げられた大理石貼りの床や柱は高級感が漂い、わたしや里美のような薄給のOL2人が使うには、ちょっと贅沢な気がした。
「わあー、素敵なロビーね」
 里美ははしゃいだ声をあげて、すっかり観光旅行気分になっている。
フロントでチェックインをしていると、
「里美さん、ひさしぶりだね」
と声をかけてきた男がいる。支配人のネームプレートをつけているので、彼が里美のおじさんの友達に違いない。
「あ、博之さん。おひさしぶりです」
 急に里美が緊張した顔になった。
「えーと、こちらがわたしの親友の美奈さんです。今日は、ちょっと京都に用があって、急遽、やってまいりました」
「ははは。そうらしいね。耕太郎から電話で聞いたよ。里美さんはどうでもいいけれど、美奈さんには失礼のないようにって、釘をさされた」
「まあ、耕太郎おじさんったら」
 里美は膨れっ面になった。
「だから、最高の部屋を用意したよ、格安でね」
 ネームプレートには大西とあったから、大西博之という名前なんだろう。
 彼は、わたしたちの荷物の入ったバックを持つと、
「それじゃあ、お部屋にご案内します。ようこそ、京都プリンセスホテルへ」
と言って、わたしに片目を瞑ってみせた。
 わたしは、わたしの隣に立っていた酒呑童子の顔をちらっと見た。酒呑童子は、わたし以外の人間には見えないのだ。あいかわらず無表情の酒呑童子は、黙ってわたしの後ろをついてくる。わたしはそれが何だか気に入らないし、物足りない。
 あの大西という支配人は、わたしに色目を使ったのよ。ちょっとは顔色くらい変えたらどうなのよ。どうしてだか判らないのだが、わたしは、かなりいらついていた。
 大西に案内された部屋は、最上階のスウィートルームだった。
「芸能人やマスコミで顔を知られた方が、お忍びで利用される部屋なんだよ。先日も里美さんがファンだと言っていたロックグループの・・・・・・おっと、危ない、危ない。ホテルマンは口が堅いのも仕事のうちだからね、もう少しで喋ってしまうところだった」
「なによぉ、けち。教えてくれてもいいじゃない?」
「ははは。駄目だよ。例え、里美さんが私の妻だとしても、それは言えない。それに、美奈さんに口が軽いと思われるのも厭だからね」
「えっ?」
 わたしと里美は、大西のその言葉に同時に反応した。
「まあ、ゆっくりおくつろぎください。料金は、普通のツインの料金にしておいたから。それと、明日の大江山行きは、レンタカーを利用するといい。なんなら、私が予約を入れておくけれど」
「ええ、お願いします」
 わたしは即座に答えた。
「では、明日の朝、9時に予約しておくから。それじゃ」
 大西はそう言って、部屋を出て行った。彼が出て行くと同時に、里美がわたしに訊いてきた。
「ねえ、美奈。彼をどう思う? 今はホテルの支配人をしているけれど、彼も耕太郎おじさんと同じで、京都大学で考古学を専攻していたのよ。彼ね、おじさんと一緒の下宿に住んでいたから、わたしは何かと理由をつけて、おじさんの家に遊びに行って、彼に勉強を教えて貰っていたの。その頃からなのよ。わたし、彼のこと、好きなんだ」
「そんなこと、あんたの態度を見ていたら、すぐ判るわよ。だからなのね、京都まで付き合ってくれたのは」
「えへへへ。バレちゃったかぁ。だから、お願いね。博之さんはわたしのものなんだから、とらないでね」
「ば~か。わたしは里美とは違うのよ。どうせ彼にするのなら、お金持ちの耕太郎さんにするわ」
 わたしは酒呑童子の顔を見ながら、そう言った。
「よかったぁ。そうしてくれると、わたしも助かる。おじさんのお嫁さんをわたしが紹介したということになれば、わたしの親戚の中での覚えもよくなるしさ」
「はいはい」
 わたしは生返事をして、テレビのスイッチを入れた。
「うわっ」
 わたしは驚いて、思わず叫んでしまった。
 なにしろ、いきなりその耕太郎おじさんの顔が、テレビの画面に大写しになったからだ。
「えーっ。おじさんが映ってるよ。何をやらかしたの?」
 里美もびっくりして、テレビ画面を覗き込んだ。地方大学の客員教授として紹介された耕太郎が、わたしが預けた硬貨を手にとって解説している。
・・・非破壊検査でこの「開基勝宝」が正真正銘の本物で、平安時代のものであることが判明しました。ご覧のように全くの無傷で、奇跡のような保存状態の良さです。恐らく現存するどの「開基勝宝」よりも美しい状態でしょう。今回、この一条天皇の縁かりのものと思われる巾着と一緒に発見されました。銀貨、銅貨を合わせ、24枚も同時に発見されたのです・・・
 画面右下には、「世紀の大発見」と見出しが出ている。
「なんだか凄いことになってるね」
 里美が溜め息をついた。
・・・上原先生、今回発見されたこれらの硬貨は、どのくらいの値打ちがあるものなんでしょうか・・・
 キャスターが耕太郎に質問している。
・・・そうですねぇ。少なく見積もっても、その価値は2億円はくだらないでしょう。ただね、そういう金銭的な価値よりも文化的価値のほうがはるかに大きいのですよ・・・
「2億円ですってぇーーー」
 里美が大声をあげた。
「耕太郎の奴、たった5百万円しかよこさなかったのに。第一、先生っていう玉かよ、あの野郎~」
 わたしは、里美の憤慨ぶりを見て苦笑した。
 里美、開基勝宝はあんたのものじゃないでしょう。もちろん、わたしのものでもないけれど。そう、こいつ、酒呑童子のもの。
 わたしは、酒呑童子を見詰めながら、新幹線の中でこいつに貫かれたことを思い出していた。
 酒呑童子。
 こいつは、わたしにしか見えない。そして、わたしの命を助けてくれた。
 こいつは、わたしの前世からの記憶に刷り込まれている情報を得るためにだけ、わたしを抱く。あの逞しい身体に抱かれると、悔しいけれど、わたしは我を忘れてしまう。
 わたしはようやく自分の気持ちに気付いた。
 あいつが無表情なのが、こんなにも悔しいのは、あいつのことが好きになったから。あいつにもっと構って欲しい。わたしだけのものにしてしまいたい。その想いは、里美が大西のことを欲しいと思う気持ちよりも、随分と強いものに違いない。
いや、この際、奇麗事は止めておこう。わたしの心の中には獣のような荒々しい情欲が、めらめらと燃え上がっていたのだ。それは、男に手ひどく捨てられ、寂しい夜をいくつも過ごし、その代償を求め、狂ったように男漁りをした間に蓄積されていったものだった。最近では、確かに平穏な生活を取り戻したように見えていたかもしれない。しかし、一皮剥けば、ぽっかりと空いた心の穴を埋めるため、男と情交を重ねることしか考えていなかったのだ。それが、あいつによって満たされた。わたしは、やっと満たしてくれるものをみつけたのだ。満たされたいと願う気持ちは、飢えていた時間が長かった分だけ強かった。  
 今すぐにでも、こいつに抱かれたかった。知らぬ間に、わたしの股間は愛液でびっしょりと濡れ、自然に腰が蠢き始めていた。里美の手前、平然を装っているが、それも限界に近づいていた。
「ねえ、美奈。あの古いお金が2億円もするものなら、美奈は大金持ちだね」
 突然、里美がつまらないことを言い始めた。
「うーん。どうかな。正確に言うと、あれはわたしのものじゃないし」
「えっ、それはどういうことなの」
 やばい。面倒なことになってきた。里美に酒呑童子のことを説明するのは難しい。
「つまり先祖のものっていうことかな、言いたかったのは」
 わたしは、しどろもどろになった。
 画面では、耕太郎がキャスターに発見の経緯を話している。
・・・わたしの姪の友人が、どうやら一条天皇家と何らかの関係があった家系らしいのです。彼女の家に代々伝わってきたものらしいのですよね。えっ? 彼女ですか。今は、この開基勝宝のことで、京都に調査に行っているはずです。名前ですか。それは、ちょっと。お教えするわけにはいきませんね。まだ、若い女性ですし、彼女が面倒なことに巻き込まれても困るのです・・・
「えーっ、美奈の家系って、そんな雅な家系だったの」
「まさか。耕太郎おじさんが、適当に作り話をしているのよ」
 その時、部屋の電話が鳴り、里美が受話器をとった。
「あっ、博之さん。・・・・・・。うん、耕太郎がテレビに出てる件でしょ。うん。わたしたちもびっくりしているのよ。・・・・・・。えっ、これから、食事に誘ってくれるの? 嬉しいわ。もちろん、ご一緒させていただきますわ。ええ、後ほど」
 受話器を置いた里美は、これ以上はない笑顔でわたしに言った。
「博之さんが、夕食に招待してくれるそうよ」
「ふーん」
 わたしはあまり気が乗らなかった。というより、はやく酒呑童子に抱かれたかったのだ。身体が疼いてしかたがないのに、のんびりと会食なんか楽しめるはずがなかった。
「わたしは、遠慮しておくわ。明日の朝、早いし、少し疲れてもいるの。わたしはいいから、里美1人で楽しんでいらっしゃい。朝までに帰ってきてくれたらいいわ。彼のこと、好きなんでしょう」
「ホントにいいの? 二人きりにしてくれるの?」
「当り前よ。親友じゃない」
 わたしは、切り札の言葉を繰り出した。
「ありがとう」
 単純な里美は、わたしに抱きついてきた。わたしは、里美の背中を撫でながら、これからの夜のことを考えていた。

「それじゃあ、行ってくるね」
 里美は化粧を入念にチェックした後、鏡の前から立ち上がって言った。
「うん。楽しんできて」
 わたしは里美に早く出て行ってと心の中で叫んでいた。はやく酒呑童子に抱かれたくて、わたしは焦れていたのだ。
 バタンッとドアの閉まる音が聞こえた次の瞬間には、わたしは振り向いて、後ろに立っていた酒呑童子の胸の中に飛び込んでいた。
「抱いて」
 わたしは叫ぶように云った。恥かしいことだが、股間は溢れ出た愛液で気持ち悪いくらいにぬるぬるになっていた。わたしは発情した牝猫の表情で酒呑童子の顔を見上げた。
「なによっ」
 相変わらずの無表情にわたしは苛立ちを隠せなかった。
「あんたには心はないの」
 酒呑童子は、ゆっくりと頭を横に振った。
「さっきから、お前の激しい欲情は判っていた。まるでさかりのついた猫だ。一体、どうしたというのだ」
 そうだった。こいつは、人の心が読めるのだ。わたしは恥かしさで頭に血が逆流するのが判った。わたしの考えていることは、全て知られている。
「そうよ。悔しいけれど、あんたのことを好きになってしまったの。あんたとは身体の関係から始まったけれど、どうしようもないくらいあんたのことが欲しいの」
 再び、あいつは頭を横に振った。
「違う。お前は、たまたま心と身体の隙間を俺によって埋められたので、錯覚しているだけだ。安易に鬼である俺と心の契りを結ぶなどと言わないほうがよい。既に、お前と俺とは身体を共有している。このうえに、心までとなると、もはや未来永劫、互いが滅びるまで離れることは叶わなくなるぞ。人間とは違って、鬼の契りは絶対不可侵なものなのだ」
「そんなこと。人間のわたしだって、約束は守るわ。あんたがわたしだけのものになってくれるなら、未来永劫の愛を誓うわ」
「・・・・・・」
 あいつは、一瞬ではあったが、悲しそうな辛そうな表情を浮かべた。それは、あいつがわたしに初めて見せた心の動きを表すものだった。わたしは、それがたまらなく嬉しかった。
「きて」
 わたしは、あいつをバスルームに連れて行った。わたしは脱ぐのももどかしく全裸になると、申し訳程度にあいつの腰を覆っている腰布を取り払った。
「あああ、素敵」
 あいつのものは、天を突くようにそそり立っていた。わたしは思わず膝まづいてそれに頬擦りをした。わたしのことを欲しているから、こんなになっているんだ。わたしはそう思うことにした。シャワーを浴びるつもりだったけれど、もう待てなかった。
 わたしはあいつの前に立つと片足を大きく跳ね上げ、あいつの腰に絡ませた。そして、片手であいつにしがみつくと、片手であいつの股間のものを握り締め、わたしの股間に導いた。それは、熱くどくどくと力強い生命力を伝えていた。
「ふうううう」
 その先端がわたしのぬるぬるになった入り口を擦ると、甘美な快感が全身に広がっていき、思わず溜め息が洩れた。
「入れるわよ」
 わたしは、あいつの目を見て言った。あいつは、目を瞑った。
ぐちゅうぅぅぅぅ・・・・・・。
 肉と肉がこね合わさる音がした。それと同時に、えもいわれぬ快感が、わたしの全身を貫いた。それと同時に、凄まじい量のエネルギーがわたしの身体の中に流入してくるような感じがした。
「何なの。この感じ。こんなこと、今までなかった」
「おおおおおおお」
 あいつが声を出していた。それは低い地響きのような震動を伴って、わたしの下半身から全身に伝わってきた。わたしの中心に打ち込まれたあいつのものは、まるで鋼鉄の心棒のようにわたしの全身を支え、わたしはいつしか両脚をあいつの腰に絡めた状態で宙に浮いていた。極彩色の光が飛び交い、全身が痺れたようになった。わたしの神経は全てわたしの女の中心に集中し、あいつのものを必死で食い絞めていた。動きたくても、動けなかった。わたしはひたすら強くあいつのものを受け容れようと懸命になっていた。それだけで、強烈な快感が全身を覆った。わたしは堪らずに、あいつの肩に回していた両腕を離してしまったが、あいつは、わたしの腰を両腕でがっちりと掴み、さらにぐっと身体を突き入れてきた。
「ひぃぃぃぃ」
わたしは限界のよがり声を放った。身体は反り返ってしまったが、わたしの女の中心奥深くまで打ち込まれたあいつのものでしっかりと支えられ、崩れ落ちることはなかった。
「いくぅ」
 わたしは無我夢中で叫んでいた。こんな快感は、今まで得たことがなかった。
 あいつのものがわたしの中でどんどんと存在を増していく。わたしの全神経がそこに集中しているからだろうか、もうそれ以外には何も認識できなくなっていた。太く逞しい怒張はわたしの身体の奥深くまで侵入し、遂にはわたしの身体に同化したかのようだった。
「飛ぶぞ」
「何?」
 わたしは朦朧とした意識の中であいつに訊いた。
「わたしとお前の隠された力が、わたしの生きていた時代へと吹き飛ばそうとしているのだ」
「そ、そんな。とめてよ」
「駄目だ。もう遅い」
 びゅうぅぅぅぅっと、風を切るような凄まじい音がして、わたしたちの身体は宙空に放り出された。次の瞬間、わたしたちは、大きな桜の木の下にいた。わたしは慌てて、あいつにしがみ付いた。
「離れないようにしてくれ。わたしたちの姿が誰からも見えないように結界を張っているが、お前の身体が外れると結界が解けてしまうのだ」
 わたしは、思わず結合部に手をやった。あいつのものは、深々とわたしの身体に挿入されている。わたしは、かあーっと顔を赤くした。こんな格好で・・・・・・。
 見回せば、そこは夜会の真っ最中だった。
 現実離れした夜桜の美しさだった。
 煌々と燃え盛る篝火と白い玉砂利が敷き詰められた広大な庭園に、はらはらと舞い散る桜の花びら。
 きらびやかな着物を着た女官たちが、幾人も行きかっている。
 直衣布袴姿の男も見える。
「ここはどこなの」
「平安の都のようだ。しかし、ここは・・・・・・、」
「何?」
 あいつの目は、かっと見開き、1点を見詰めている。その視線を追った先には、膳を前に酒を酌み交わしながら談笑する男女がいた。彼らは、実に美しかった。似合いのカップルだと思った。その顔を見た時には、わたしは心臓が止まるかと思った。
 男は、あいつにそっくりだったし、女はわたしと瓜二つだったのだ。
「これはどういうことなの」
「ここは、美奈殿のご自宅。あそこで酒を酌み交わしているのは、鬼と成果てる前のわたしとわたしの妻となった美奈殿だ」
「妻ですって。それに、美奈殿って、どういうことよ」
 わたしの声は掠れていた。
「奈良の都から平安の都への遷都して久しいが、もともと奈良の都のご出身であった美奈殿のお父上は、奈良の都のことを懐かしがられて、美しい奈良の都という意味を込めてご息女に『美奈の君』と名づけられた。わたしは、美奈殿の美しさに恋焦がれ求愛したのだ。わたしは、3夜続けて、美奈殿の部屋に通った。そして、二人で餅を食べ、今宵は花見を兼ねた所顕しの宴という手筈だった」
 それを聴いて、わたしはあいつに強くしがみ付いた。
「それって、通い婚じゃないの。わたしたち、前世では正式な夫婦だったのね」
 わたしを抱きしめるあいつの手がぶるぶると震えている。
「しかし、わたしは裏切られた」
「えっ?」
「無二の親友と信頼していたのに、頼光殿がわたしから美奈を奪ったのだ」
「なんですって。あんた、わたしに源頼光の血が流れていると云ってなかった?」
「そうだ」
 酒呑童子の顔は、真っ赤に染まり憤怒の表情に変っていた。
「全ては大王の陰謀だったのだ。頼光殿も大王の策略によって、最後は命を落とされた」
 酒呑童子の怒りは、髪の毛をも逆立たせるほどのものだった。それが、結界に微妙な影響を与えたのだろう、一部、結界が崩れた。
「ぬっ。もののけが!」
 若き日の酒呑童子の隣で酒を飲んでいた男が立ち上がった。
「頼光殿!」
 酒呑童子が唸った。あれが源頼光なのか。紫色の直衣をまとい、きりっとした顔立ちは、いかにも高貴な育ちを思わせた。
「弓を持てっ」
 源頼光は叫んだ。
 わたしは恐怖心でいっぱいになり、あいつにしがみ付いていることしかできなかった。あいつは呪詛のようなものを唱えている。
「ねえ、なんとかしてよ。逃げなくちゃ」
 わたしは叫んだ。次の瞬間、パァーッと白い光がわたしたちの周囲を包んだ。

 気がつくと、わたしはベッドの上に横たわっていた。その脇には、あいつが立っていた。
「よかったわ、無事で」
 わたしは正直に言った。あいつは頷いていた。
 わたしは、ふと気になって、あいつに訊いた。
「ねえ、あんたには、名前はないの」
 あいつは、頭を横にふった。
「名前があるなら、教えてよ。わたしたち、一心同体なんでしょう。これからは、お互い、名前で呼び合いましょう」
「俺の名は、実昭。姓はずっと昔に捨てた」
「ふーん。実昭ね。判った。これからは、あんたのことは、実昭って呼ぶから。わたしのことも、お前じゃなくて、美奈って呼んで。判った?」
「ああ。いいとも。そうしよう」
「じゃあ、実昭。ここにきて」
 わたしは、右手でシーツをぱんぱんと叩いた。
「一緒に寝ようというのか」
「そうよ」
「里美が帰ってくる」
「帰ってなんか来ないわよ。里美は、今頃、あの支配人といちゃいちゃしているはずよ。帰ってくるのは、そうね、賭けてもいいわ。明日の朝方よ」
「判った」
 実昭はわたしの横にごそごそと潜り込んできた。
「ねえ、胸を貸して」
「ああ」
 わたしは、彼に腕枕をしてもらい、胸の中に潜り込んだ。これなのだ。わたしは長い間、こんなふうにして眠ることを夢見ていた。やっと夢がかなった。
 わたしには、実昭に訊きたいことはたくさんあった。あの夜会の出来事は、本当のことだったのだろか、それとも、幻覚だったのだろうか。でも、それを問い質すことは怖かった。口に出掛かっているそれを飲み込んで、わたしは、明日の大江山行きのことを訊いた。
「明日、実昭の身体を捜しに大江山に行くから。もし、身体が見つかったら、どうするの」
「・・・・・・」
「わたしの記憶を読んで、場所は判ったのでしょう」
「それが、まずいことが起こった」
「えっ、どうしたの」
「先ほどの情交で判ったのだが、わたしの身体が隠されている場所に、結界が張られてしまった。多分、閻魔大王の計略だろう」
「そんなもの、実昭の力で打ち破れないの」
「無理だ。大王の力はとてつもなく強大だ。それに」
「それに、何」
「人質をとられた」
「人質って」
「美奈が助けたあの少年、俊夫とその女の真理が大王に捕まってしまったのだ」
(続く)


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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
10ヶ月ぶりの<続き>ですね。 (えい)
2007-01-03 11:40:34
こんにちは。

実は、昨日いただいたコメントのお返事に、
この「外伝」のおとを書いたばかりでした。

これだけ一気に書くのは大変ですよね。
少しずつ、書き溜めておいたと言うことでしょうか?
返信する
えいさんへ (mina)
2007-01-03 12:10:13
「mina外伝」「愛人」を読んでいただいているそうで、本当にありがとうございます。
mina外伝は、去年10月に連載を開始したものです。愛人は、去年の2月。
それがどうして一昨年の3月に集中しているかというと、いつまでもブログのトップに置いておくと、goo事務局に教育上よろしくないと叱られるからです。
だから、せいぜい2週間。
そのくらい晒したら、後ろのほうに追いやってしまうのです。それが、2005年3月に官能小説が集中している理由。
時間があれば、原稿用紙で10枚くらいは書けるのですけれど。それ以上は、書いて書けなくはないのですが、文章が散漫になるみたいです。
わたしとしては、mina外伝程度の描写は、普通の小説でもあると思うので、そんなに言わなくても、と思うのですけれども。
返信する
普通?? (猫姫少佐現品限り)
2007-01-03 15:57:01
一般的には、普通じゃないでしょ。
頑張って書いてね!
返信する
猫姫さまへ (mina)
2007-01-03 17:42:07
やっぱり?
駄目?
うーん、じゃ、仕様がない。
もっと頑張る。
返信する
早速(^▽^)/ (takky)
2007-01-04 01:33:15
早速読ませていただきました
閻魔大王の元へ連れて行かれたところから始まるのかと思っていましたが 最後に出てきましたね
ワクワクして楽しませていただきました
返信する
takkyさまへ (mina)
2007-01-04 01:53:20
読んでいただいて、ありがとうございます。
ようやく酒呑童子の生地へ着きました。
返信する
ごめん! (猫姫少佐現品限り)
2007-01-04 17:03:24
あたしが普通と書いたのは、
えいさまへの返コメに対してなんです!
>mina外伝程度の描写は、普通の小説
ごめんねぇ!
いぁ、この小説はいいんです!
この調子で、いぁ、もっと逝っても良いです!
返信する
Unknown ()
2007-01-04 17:38:03
写真がまた、
SEXY
返信する
猫姫さまへ (mina)
2007-01-04 21:04:55
それじゃあ、お言葉に甘えて、もっと逝くことにします!
返信する
東さまへ (mina)
2007-01-04 21:05:39
それほどでも・・・・・・
返信する

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