minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

ひとみの場合 第6章

2005年03月10日 | 官能小説「ひとみの場合」
その晩から2週間後。
 則彦は朝から商用で外出した。かねてより新商品の売り込みをかけていたところ、ようやく先方の社長とアポイントが取れたのだ。出かけるついでに近隣数社にも表敬訪問するということで、ほぼ1日の時間をつくった。午前中にメインの訪問先の用件は済ませた。なんと数億にもなる商談がまとまったのだ。気分をよくして、午後からの懸案事項にかかることにした。
 「俺もどうかしてるな。」
 則彦は植え込みのかげに身を隠しながら、ひとみがマンションから出てくるのを見張っていた。昨夜、ベッドの中でひとみは悪びれもせず、元カレと明日、映画に行くと言ったのだ。映画を観て、それからどうするのだろう。ラブホテルに行ってセックスするのだろうか。じりじりと嫉妬の炎が則彦の心を苛んでいた。ひとみには下着を持たせていないから、元カレに会う時も、もちろんノーパンだ。そんな格好でデートするなんて、セックスしてくれと言っているようなものではないか。しかし、元カレと会う時は、ちゃんとパンツを買って穿いていけとは言えなかった。そんなことを言えば、スカートの中を見せることが前提となってしまうし、第一、ひとみを信用していないことになる。悶々とさまざまなことを考えているうちに、ひとみがマンションから出てきた。ブルーを基調にした花柄プリントのミニのワンピースを着ている。ひとみに見つかったらいけないので、かなり距離をおいて尾行することにした。ひとみは道端に立ってタクシーを止めるために手を上げている。郊外の映画館に行くつもりなのだ。元カレとはそこで待ち合わせしているだろう。則彦も急いでタクシーを拾った。
 その映画館は松山市の中心街から西に3キロほどの郊外にあり、巨大な駐車場とおしゃれな飲食店やショッピングモールを備えた若者に人気のレジャースポットのひとつになっていた。映画館のフロントは2階にあり、いくつもある映画の中から観たいものを選んでチケットを買う仕組みになっている。昔は単体の映画館が市内にいくつもあり、観たい映画によって違う映画館に行かなければならなかったが、このコンプレックス(複合)シネマ館だと一か所で全てが観れる。便利になったものだ。しかも、疲れにくい大型の座席を配備した館内は、照明にも工夫を凝らし、暗くて汚いという従来の映画館のイメージを払拭して、明るく清潔な心地よい空間に一変している。顧客動向や嗜好を的確に掴み、創意工夫を重ねることによってリーズナブルな料金を実現し、手軽に間違いなく楽しめる娯楽として、映画は知らぬ間に遠のいていた客足をみごとに呼び戻していた。
 則彦はひとみに見つからないように、細心の注意を払ってフロントへの階段を昇った。フロントではひとみの視界から隠れ、柱に身を潜めた。ひとみはデートの相手を探して、落ち着かない素振りだ。そのうち、携帯電話をバックから取り出して話し始めた。途端に満面の笑顔になったことから、彼からの電話だと判る。ひとみは、うんうんと頷きながら、エレベーターに乗った。どうやら、男はひとつ上の階にある喫茶店で待っているらしい。館内への入口はフロント脇にあるから、則彦はエレベーターからひとみたちが降りてくるのをそのままフロントで待つことにした。
 則彦がおかしいと思い始めたのは、それから30分も経ってからであった。彼女たちが降りてこないのだ。待ち合わせの時間に丁度合う様な開演時間の映画はとうに上映が始まっている。ひとみに見つかってしまう恐れがあったが、やむを得ず彼は階上の喫茶店に行くことにした。3階の喫茶店に行って、則彦は愕然とした。ひとみがいないのである。しかし、その謎もすぐ解けた。この喫茶店は特別席の専用ラウンジも兼ねていて、特別席のチケットを持っていればフリードリンクとなると同時に、店の奥にある専用入口から館内に入れるのだ。彼女たちはそこから館内に入ったに違いなかった。そうと判れば、特別席のチケットを買ってくるだけだ。特別席があるのは、1号館だけであり、上映している映画はマトリックス2である。特別席のチケットをフロントで買い求め、専用入口から館内に入った。ウィークデーのうえに封切りからかなり経っていることもあって、200席ある特別席の観客はひとみたちだけだった。ひとみと男は一番前の中央に座っていた。同じ館内でも一段高い所に設置された特別席は一般席との間に壁があったから、二人は人目から完全に遮断されていた。ソファ型の座席は大型で一般席の倍以上の幅があり、さすがにゆったりしていた。座席の間には飲物やスナック等を置くテーブル代わりになる木板の肘掛が付いているので、これだと、ひとみたちのようなカップルには二人の間の距離が遠くて、かえって不満が残るだろう。則彦はひとみに気付かれないように、注意深く距離を置いて席を選んだ。全席指定だが、他に観客がいないのだからどこに座っても文句は出ない。
 自分の席を確保して、あらためて二人を見た則彦は、我が目を疑った。則彦の座っている位置からだと男の姿はひとみのかげになっていてよく見えないが、他に観客がいないのをいいことに、二人はひとつの座席に抱き合うようにして座っているのだ。しかも、映画そっちのけで濃厚なキスを交わしている。男の手はひとみの胸を揉み、もう片方の手はスカートの中に消えている。ひとみのスカートの中がどうなっているかを想像した則彦は、頭に血がのぼってしまった。ひとみは男の愛撫に肩で息をするほど身を悶えさせている。ひとみの「ああっ、ああっ。」という甘い喘ぎ声が則彦のところまで聞こえてきそうだ。びくっと痙攣したひとみが、その上気した貌を一瞬、則彦の方に向けたような気がした。則彦は慌てて、顔を隠した。幸いにもひとみは則彦に気付かなかったようで、男との痴戯にのめり込んでいる。そのうち、男がひとみの耳元で何かを囁くと、彼女は大きく頷き、熱いキスを最後に立ち上がった。ひとみは腰まで捲り上げられたミニのワンピースの裾をすばやく引き下ろしたが、暗い館内でノーパンの白い尻が一瞬ではあるがぼうと浮かび上がった。ひとみは何事もなかったかのように、男の腕に抱かれて出口に消えた。則彦は二人を追うために、頃合いを見図らって席を立った。
 1階のロビーに降りると、二人はタクシーに乗り込むところだった。則彦も後続のタクシーで二人の跡を追った。二人はやがて市内の繁華街の外れでタクシーを降りた。そこは則彦がよく利用していたラブホテル街のすぐ近くだった。ひとみは男に抱きかかえられる様にして、そのうちの1軒のラブホテルの中に入って行った。則彦はその様子を呆然として見送っていた。
(続く)

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