田中宇 『日本が「対米従属」を脱する日』 ( p.45 )
米国の衰退とともに、多極化は進行してゆく。米政府が英国に対して冷淡であることは、米政府が多極型世界を嫌っているふりをして、実は多極型を好むという「隠れ多極主義」の立場なのだと私が考える理由の一つになっている。クリントンは事実上、イランは中東の主導的な国の一つであると認めている、と書かれています。
著者がここで述べている「クリントン演説」とは、「ヒラリー・クリントン国務長官の外交問題評議会での講演」を指しています。
さて、「米国の衰退」が原因で多極型世界になる、と考えることも不可能ではありませんが、
どちらかといえば、「米国の国力は相変わらず強力だが」米国は世界の自由化・民主化を目指しているので、世界は多極化(民主化)すると考えるのが実態に合致していると思われます。
したがって、べつに「隠れ多極主義」などという複雑なことを考えなくともよいと思います。
次に、クリントン長官は講演で、イランについて「近隣諸国を脅さず、テロ支援をしなければ、中東地域で建設的な役割を担う国家となりうる。国民の人権を守れば、国際社会で責任ある位置を占めることができる」と述べているが、「これらの条件は相対的なものであり、クリントンは事実上、イランは中東の主導的な国の一つであると認めている」と著者(田中宇)は主張しています。
しかしこれは、「米国の衰退」によって「やむなく」認めたと考える必要はないと思います。もともとイランは中東の主導的な国の一つに「なりうる」国なので、
米国の意図をどう考えるかは、中東・北アフリカでの民主化の動きをどう考えるかにも影響します。おそらく著者は「米国はやむなく民主化を容認した」と考えることになるのだろうと思いますが、それは「ヒラリー・クリントン国務長官の外交問題評議会での講演」や、米国の示している態度(下記の報道参照)に反しているのではないかと思います。
たんに、米国は世界の「自由化・民主化を目指している」と考えればそれでよいし、また、そう考えるべきではないかと思います。
「asahi.com」の「オバマ大統領、中東民主化の動き称賛 国務省で演説」( 2011年5月20日3時22分 )
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クリントン演説のもう一つの重点は、従来は米国にとって最重要の同盟国だった英国について、一言も言及していないことだ。英国の国名は、演説に全く出てこない。EUやNATOとの同盟関係についての言及の中に、英国は埋もれてしまっている。英国は、多極化によって国益が最も損なわれる国の一つである。近年の米政府が英国に対して冷淡であることは、米政府が多極型世界を嫌っているふりをして、実は多極型を好むという「隠れ多極主義」の立場なのだと私が考える理由の一つになっている。
(中略)
中東のイスラム世界は、世界の極の一つになるべき地域だが、その内部は、さらに多極的に分かれている。中東の盟主となりうる国はトルコだけでなく、ほかにイラン、サウジアラビア、エジプトがある。もともとトルコはEUに入って欧州の国になる予定だったので、中東の覇権争いの中では、むしろ新参者だ。クリントン演説では、イランについて「近隣諸国を脅さず、テロ支援をしなければ、中東地域で建設的な役割を担う国家となりうる。国民の人権を守れば、国際社会で責任ある位置を占めることができる」と述べている。これらの条件は相対的なものであり、クリントンは事実上、イランは中東の主導的な国の一つであると認めている。米共和党系のランド研究所も90年6月に「イランを封じ込めることは無理だから、むしろイランの影響力を認め、アラブ諸国との関係を安定させるペルシャ湾岸地域の多国間安保体制を作ってやった方がよい」とする報告書を出している。
中東の主導国として残るのはサウジアラビアとエジプトというアラブ側だが、エジプトは現政権が米国の傀儡で、米国の衰退とともにどこかの時点で崩壊し、イスラム同胞団に政権を乗っ取られる。中東の主導国うんぬんの話をそのあとだ。サウジもまだ対米従属を捨てられないので、多極化の話の表舞台に出てこない。昔から他力本願で、英国に騙されて分割されても懲りずに対米従属しているアラブ勢が立ち上がるのは、米国に頼れないことがもっとはっきりしてからになるだろう。
米国の衰退とともに、多極化は進行してゆく。米政府が英国に対して冷淡であることは、米政府が多極型世界を嫌っているふりをして、実は多極型を好むという「隠れ多極主義」の立場なのだと私が考える理由の一つになっている。クリントンは事実上、イランは中東の主導的な国の一つであると認めている、と書かれています。
著者がここで述べている「クリントン演説」とは、「ヒラリー・クリントン国務長官の外交問題評議会での講演」を指しています。
さて、「米国の衰退」が原因で多極型世界になる、と考えることも不可能ではありませんが、
どちらかといえば、「米国の国力は相変わらず強力だが」米国は世界の自由化・民主化を目指しているので、世界は多極化(民主化)すると考えるのが実態に合致していると思われます。
したがって、べつに「隠れ多極主義」などという複雑なことを考えなくともよいと思います。
次に、クリントン長官は講演で、イランについて「近隣諸国を脅さず、テロ支援をしなければ、中東地域で建設的な役割を担う国家となりうる。国民の人権を守れば、国際社会で責任ある位置を占めることができる」と述べているが、「これらの条件は相対的なものであり、クリントンは事実上、イランは中東の主導的な国の一つであると認めている」と著者(田中宇)は主張しています。
しかしこれは、「米国の衰退」によって「やむなく」認めたと考える必要はないと思います。もともとイランは中東の主導的な国の一つに「なりうる」国なので、
クリントン長官は「たんに事実を述べただけ」あるいは「イランに対し、米国の目指す世界像に合致した歩みを勧めるメッセージを発している」と考えれば、それで足ります。ことさら「米国の衰退」と結びつける必要はないと思います。
米国の意図をどう考えるかは、中東・北アフリカでの民主化の動きをどう考えるかにも影響します。おそらく著者は「米国はやむなく民主化を容認した」と考えることになるのだろうと思いますが、それは「ヒラリー・クリントン国務長官の外交問題評議会での講演」や、米国の示している態度(下記の報道参照)に反しているのではないかと思います。
たんに、米国は世界の「自由化・民主化を目指している」と考えればそれでよいし、また、そう考えるべきではないかと思います。
「asahi.com」の「オバマ大統領、中東民主化の動き称賛 国務省で演説」( 2011年5月20日3時22分 )
オバマ米大統領は19日、米ワシントンの国務省で中東政策の重要演説を行った。中東や北アフリカでの民主化の動きを促進するため、世界銀行や国際通貨基金(IMF)などとともに、エジプトやチュニジアへの経済支援策を強める意向を表明。シリアなど強権的な国に民主化勢力の武力弾圧停止を強く求めた。
オバマ大統領は「この半年で中東で並外れた変化が起きた」と、この地域で高まった民主化の動きを称賛。米政府が、民主化活動に対して加えられる暴力を非難し、集会や表現の自由を含む普遍的権利の保護や経済支援の強化をすることで、民主化を後押しする考えを示した。
旧政権が退陣したエジプトとチュニジアを民主化の成功例とし、経済成長や投資を促す財政支援に力を入れる方針を表明。来週、フランスで開かれる主要国首脳会議(G8サミット)で、「世界銀行とIMFに、エジプトとチュニジアの経済の近代化と安定化に向けた計画の提示を求めた」と述べた。また、地域全体で貿易と投資促進策を強化する考えも明らかにした。
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