言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

証券会社を救済すべきか

2010-02-06 | 日記
池尾和人|池田信夫 『なぜ世界は不況に陥ったのか』 ( p.44 )

池尾 ベアー・スターンズを救済したのに、どうしてリーマンを破綻させたのかということに関するアメリカ当局側の説明というか理由付けは、ベアー・スターンズが破綻したときには制度がなかったというわけです。ベアー・スターンズの破綻時には、FED が投資銀行に対して最後の貸し手としての機能を発揮できる仕組みは存在していなかった。最後の貸し手としての FED の機能は、あくまで商業銀行に対するもので、証券会社に対してはそうした機能は果たせなかった。
 ところが、ベアー・スターンズの件があったことから、プライマリーディーラーに対しても、ちゃんとローンファシリティを提供しますと、最後の貸し手としての窓口をつくった。それが、PDCF と呼ばれている仕組みです。そういう制度整備をしたから、それ以後の問題については、もっと原則的な対応をしますということで、リーマンについては証券会社なのだから、その破綻がシステミックリスクにつながるものではないがゆえに破綻させたという説明になっています。
 ところが、リーマン・ブラザーズはこの時点で証券会社というよりは、自分で大きなポジションを持った銀行というか、少なくとも銀行もどきと言った方がいい存在になっていました。それを破綻させたことは、事実の問題として、単なるブローカー業務を中心とする証券会社の破綻とは全然違う大きなショックを、ある意味でシステミックなショックをアメリカの金融システムに及ぼしたわけです。
 とくにリーマン・ブラザーズは、CP 市場での非常に大きなプレーヤーだったことから、この破綻はさらに CP 市場などの機能不全を深刻化させることにつながりました。

池田 リーマンを破綻させたとき、ポールソン財務長官が 「救済することは一度も考えなかった」 と自信を持って断言したのが印象に残っています。ところが、この直後に AIG の株価が暴落して一ドルになり、FED が八五〇億ドルの緊急融資を行った。総資産三五〇〇億ドルのベアー・スターンズを FED が緊急融資して買収を支援したのに、六四〇〇億ドルのリーマンの買収は支援しないで破綻させ、その後 AIG に緊急融資を行って救済するという首尾一貫しない政策が市場を混乱させて、パニックを広げた面もあります。

池尾 そこには現代の金融の実像と観念の相違のようなものが見て取れます。昔の認識だと、銀行、証券、保険という確たる区別があった。銀行は信用創造を担っているし、預金者保護という大義名分があるからセーフティネットでカバーしないといけない。同じように保険会社も保険契約者保護があってカバーしなきゃいけない。でも、ブローカー業務の証券会社は破綻しても一般事業会社の破綻と同じだという観念がありました。
 そういう観念が顔を出したような気がしないでもない。ただ、AIG の場合は、CDS に代表されるクレジットデリバティブ関係の取引のハブのような存在になっていました。それを破綻させると、それこそ取り返しがつかなくなるという認識が先行したのだろうと思います。
 もっとも、AIG は救済されたと言われるけれども、政府管理下に置いて時間をかけて清算していくということで、最終的には私はなくなると思っています。最後に残ったのがどこかに売却されて、名前が続いて業務を継続するかもしれないが、実質的には時間をかけて解きほぐして清算していって、だんだん消滅させていくということでしょう。

池田 でも新聞の見出しでは、リーマンは破産 ( バンクラプシー ) 、AIG は救済 ( ベイルアウト ) となっちゃう。リーマンは裁判所で資産を清算し、AIG もちょっと時間をかけて政府が清算するだけで、実態はそんなに違わないかもしれないけど、情報のない一般投資家にとっては、破産と救済では天と地ほど違う。裁判所に駆け込むのと政府に駆け込むのが全然違う言葉になっちゃうところに、今回の危機の一つの原因があったような気もします。心理の問題というのは、プロが考えているよりずっと大きいわけで、それをアメリカの当局も、ちゃんと配慮しなかったんじゃないでしょうか。


 ベアー・スターンズは救済したが、リーマン・ブラザーズは破綻させた。しかし AIG は救済する。それはなぜなのか、また、対応の違いはいかなる影響を及ぼしたのかが、論じられています。



 「リーマン・ブラザーズはこの時点で証券会社というよりは、自分で大きなポジションを持った銀行というか、少なくとも銀行もどきと言った方がいい存在になっていました。」 と述べておられますが、

   大きなポジションを持っていたとはいえ、証券会社は証券会社

だと思います。

 大きなポジションを持っているというのが、( 一般の証券会社とは ) 異なる扱いをする理由になるなら、一般事業会社が大きなポジションを持っていれば救済するのか、ということになってしまいます。もしそうなら、( 一般事業 ) 会社が倒産しそうになったら、金融市場で大きなポジションを持てばよい。そうすれば、必ず政府によって救済される、ということになってしまいます。こんなことが認められてよいはずはないでしょう。

 したがって、大きなポジションを持っていようがいまいが、証券会社は証券会社である、と考えるべきではないかと思います。



 やはり、( 商業 ) 銀行や保険会社と、証券会社との決定的な違いは、広く一般の資金を集めているかどうか、にあるのではないでしょうか。

 「CDS に代表されるクレジットデリバティブ関係の取引のハブのような存在」 であるかどうかなどは、どちらかといえば 「取引先の多い大企業」 であるかどうかに類する事柄であって、証券会社を、銀行や保険会社と同列に扱う根拠にはならないと思います。

 したがって私としては、今回の金融危機の経験をもって、「証券会社をも保護しなければならない」 と考えなくともよい、と思います。"too big to fail" と同じ論理で考えればすむと思います。



 この対談では、「救済」 された AIG は消滅するのではないか、と予想されています。実際にどうなるのかはわかりませんが、この問題をどう扱うかが、米国の衰亡を占う要素になるのではないかと思います。