「仙台 中堅弁護士のつぶやき」 の 「弁護士業務広告について」
弁護士業務広告の現状に対して、「弁護士業務はプロフェッションであり、商売にさせてはいけない」というような理念はどこに行ってしまったのか、何らかの規制があった方がよい、と書かれています。
書かれていることは、もっともだと思います。
しかし、何点か、疑問な点もあります。疑問点について、記します。
「ユーザーである市民の方向けに弁護士の情報を発信することは決して悪いことではない」 というのは、その通りだと思います。弁護士について、専門・得意分野は何なのかがわからなければ、市民・企業としても、どの弁護士に依頼してよいのかわかりません。
しかし、「広告に多額の費用をかけているということは、その分、どこかで穴埋めをしないといけません」 という部分は、間違っているのではないかと思います。この記述は、広告費を回収するために、弁護士以外の者への業務の丸投げや、料金上乗せなど、利用者である市民・企業に不利益が及ぶ弊害が、弁護士業務広告にはあることが前提になっているのですが、
広告を打っている弁護士の弁護士料金が、広告を打たない弁護士の弁護士料金よりも高ければ、広告を打たない弁護士に依頼しようとする者が増えると考えられますから、そのような弊害は考慮する必要がないと思います ( もっとも、高いか安いかは、たんに価格のみで決まるわけではなく、個々の弁護士の能力やサービス内容とのバランスで決まるものであり、一見、高い価格に見えるけれども、じつは安い、ということもあり得ます ) 。
広告にかかる料金は、大量の案件を受任することによって、一件あたりの費用を下げつつ、回収されるのではないかと思います。
次に、「弁護士の仕事は、同じような案件に見えても一件一件全部事情が違います。ひとりひとりの事情に合わせて最善の方法を考えるということは、本来は大量生産ができる仕事ではないのです。」 とのことですが、
弁護士の仕事に、そのような面があるのは事実だと思いますが、同じような案件には、共通する部分も存在しています。共通する部分は、大量生産と同様の発想によって、合理化することが可能です。「一件一件全部事情が違う」 などというのは、ほとんどすべての業種・仕事にあてはまることであって、弁護士業務に特有の事情ではありません。
また、「実際、そういうクレームも増えているらしく、だから今回の決議にも至っている訳です。」 については、決議そのものが、ズレているのではないかと思います。
弁護士業務の丸投げは、弁護士法違反として、懲戒処分等によって対応すべき事柄であり、弁護士業務広告を禁止・規制せよ、という主張と結びつけるには、無理があります。弁護士業務広告に問題があるのではなく、「受任後の」 弁護士の業務の行いかたに問題があるからです。
「たとえば、過去に懲戒を受けたり、弁護士会への苦情申立件数が一定件数を超えた弁護士の事務所は何カ月かメディアへの広告掲載を禁止するとか。」 については、
それ以前に、やるべきことがあるのではないかと思います。懲戒された弁護士についての情報は、公開されているとはいえ、市民は、事実上、知り得ないのが現状です。したがって、たとえば、懲戒された弁護士名・事務所名・事務所所在地・懲戒事由等の情報を、簡単に閲覧・検索できるデータベースのようなものを弁護士会で作り、公開することが優先されるべきであり、そのような対応が、本筋だと思います。
さらに、「昔の職業倫理というかプロ意識はどこに行ってしまったのかと思います。」 については、
競争による弊害だとは考えられないと思います。競争が激しかろうが、職業倫理に従った行動をとる弁護士は、倫理違反をしないと思います。また、「行政指導は明確でなければならない」 や 「適切な催告期間とは、どの程度なのか」 に記したような、倫理上、疑問のある行動をとる弁護士は、疑問のある行動をします。
弁護士の職業倫理は、競争と無関係だとまでは思いませんが、競争があればなくなるようなものではないと思います。
全国クレジット・サラ金問題対策協議会などが、弁護士・司法書士によるクレサラ被害者の二次被害が増えているとして、弁護士らによる単独の業務広告の禁止を求める決議を出したそうです。
http://www.asahi.com/national/update/1207/TKY200912070306.html?ref=goo
日弁連では平成12年まで弁護士の業務広告を原則禁止していました。
これは、「弁護士が事件あさりをするようなことは品位にかける」、「弁護士業務はプロフェッションであり、商売にさせてはいけない」というような理念に基づいていたものと思います。
実際、昔は多くの弁護士がこのような理念を持っていたと思います(もちろん、弁護士の絶対数が少ないために広告の必要性が乏しかったという事情もあったかも知れません)。
しかし、市民の側に立つと、どの弁護士がいいのか、何が得意なのかといった情報が少なすぎるという声も多く、すったもんだの議論の末に平成12年に原則解禁になった訳です。
しかし、今のようなテレビ広告の状況をみると、昔の職業倫理というかプロ意識はどこに行ってしまったのかと思います。
それだけでなく、広告に多額の費用をかけているということは、その分、どこかで穴埋めをしないといけません。
弁護士の仕事は、同じような案件に見えても一件一件全部事情が違います。ひとりひとりの事情に合わせて最善の方法を考えるということは、本来は大量生産ができる仕事ではないのです。
広告を出して大量に定型的に処理をしようとすると、結局多くの部分を事務員に任せきりにするか(事務員への全部丸投げは弁護士法違反です)、逆に弁護士が対応する部分を多くすれば依頼者からいただく費用に広告費分を上乗せするかせざるを得なくなっていくでしょう。
実際、そういうクレームも増えているらしく、だから今回の決議にも至っている訳です。
私は、ユーザーである市民の方向けに弁護士の情報を発信することは決して悪いことではないと思っていますし(だからブログもやっている訳で)、今流れているようなテレビ広告も、それまで全くどうしていいかわからなかった人が何人かでもそれによって救われたとするなら、ユーザーの利益にかなっている面もあるのかとも思います。
ただ、弁護士業務の特性を考えると、やみくもに客集めをするような広告については、やはり何らかの規制があった方がよいと思います。たとえば、過去に懲戒を受けたり、弁護士会への苦情申立件数が一定件数を超えた弁護士の事務所は何カ月かメディアへの広告掲載を禁止するとか。
これから、さらに弁護士人口が増える中で、無秩序な広告合戦が広がるようなことだけは避けてもらいたいですね。
もっとも、大きく広告を出しても経済的にペイしそうなのは過払金請求くらいのもので、それももうピークを過ぎてきたことからすれば、弁護士業務広告も間もなく自然に下火になっていくのかも知れませんけどね。実際、過払金がこれほどメジャーになる前は全国的にテレビCMを出そうなどという事務所はほとんどありませんでしたから。
弁護士業務広告の現状に対して、「弁護士業務はプロフェッションであり、商売にさせてはいけない」というような理念はどこに行ってしまったのか、何らかの規制があった方がよい、と書かれています。
書かれていることは、もっともだと思います。
しかし、何点か、疑問な点もあります。疑問点について、記します。
「ユーザーである市民の方向けに弁護士の情報を発信することは決して悪いことではない」 というのは、その通りだと思います。弁護士について、専門・得意分野は何なのかがわからなければ、市民・企業としても、どの弁護士に依頼してよいのかわかりません。
しかし、「広告に多額の費用をかけているということは、その分、どこかで穴埋めをしないといけません」 という部分は、間違っているのではないかと思います。この記述は、広告費を回収するために、弁護士以外の者への業務の丸投げや、料金上乗せなど、利用者である市民・企業に不利益が及ぶ弊害が、弁護士業務広告にはあることが前提になっているのですが、
広告を打っている弁護士の弁護士料金が、広告を打たない弁護士の弁護士料金よりも高ければ、広告を打たない弁護士に依頼しようとする者が増えると考えられますから、そのような弊害は考慮する必要がないと思います ( もっとも、高いか安いかは、たんに価格のみで決まるわけではなく、個々の弁護士の能力やサービス内容とのバランスで決まるものであり、一見、高い価格に見えるけれども、じつは安い、ということもあり得ます ) 。
広告にかかる料金は、大量の案件を受任することによって、一件あたりの費用を下げつつ、回収されるのではないかと思います。
次に、「弁護士の仕事は、同じような案件に見えても一件一件全部事情が違います。ひとりひとりの事情に合わせて最善の方法を考えるということは、本来は大量生産ができる仕事ではないのです。」 とのことですが、
弁護士の仕事に、そのような面があるのは事実だと思いますが、同じような案件には、共通する部分も存在しています。共通する部分は、大量生産と同様の発想によって、合理化することが可能です。「一件一件全部事情が違う」 などというのは、ほとんどすべての業種・仕事にあてはまることであって、弁護士業務に特有の事情ではありません。
また、「実際、そういうクレームも増えているらしく、だから今回の決議にも至っている訳です。」 については、決議そのものが、ズレているのではないかと思います。
弁護士業務の丸投げは、弁護士法違反として、懲戒処分等によって対応すべき事柄であり、弁護士業務広告を禁止・規制せよ、という主張と結びつけるには、無理があります。弁護士業務広告に問題があるのではなく、「受任後の」 弁護士の業務の行いかたに問題があるからです。
「たとえば、過去に懲戒を受けたり、弁護士会への苦情申立件数が一定件数を超えた弁護士の事務所は何カ月かメディアへの広告掲載を禁止するとか。」 については、
それ以前に、やるべきことがあるのではないかと思います。懲戒された弁護士についての情報は、公開されているとはいえ、市民は、事実上、知り得ないのが現状です。したがって、たとえば、懲戒された弁護士名・事務所名・事務所所在地・懲戒事由等の情報を、簡単に閲覧・検索できるデータベースのようなものを弁護士会で作り、公開することが優先されるべきであり、そのような対応が、本筋だと思います。
さらに、「昔の職業倫理というかプロ意識はどこに行ってしまったのかと思います。」 については、
競争による弊害だとは考えられないと思います。競争が激しかろうが、職業倫理に従った行動をとる弁護士は、倫理違反をしないと思います。また、「行政指導は明確でなければならない」 や 「適切な催告期間とは、どの程度なのか」 に記したような、倫理上、疑問のある行動をとる弁護士は、疑問のある行動をします。
弁護士の職業倫理は、競争と無関係だとまでは思いませんが、競争があればなくなるようなものではないと思います。