この季節になると楽しみなのが、「ずくし」(熟柿)。
真っ赤に熟し切って半透明になった柿。この今にも中身が弾けそうな柔らかな朱色の薄皮のなかには、トロリとした濃厚な柿ジュースがパンパンに詰まっている。先の尖がった先端部分を、チュウチュウと啜ると甘~い果汁が口の中に広がっていく。
トロっトロの、ねっとりと甘い柿の果汁と、ツルンと飛び出てくる、コリッとした果肉。2種類の違う食感が1つの柿の中にたっぷり詰まっていて、味・食感ともにたまらない。
谷崎潤一郎が『吉野葛・盲目物語』で、「ずくし」のことを「甘露のような甘みを持つ」と書いていたけど、ホントに羊羹よりも甘い、でも人工的なくどさがまったくない、今の、ごく僅かな季節にしか出回らない芳醇な秋の味覚だ。
ところが、ある東京の人は、この「ずくし」を知らなかった。果物屋さんでこの話題になった時も、丁度居合わせた人達と、「東京の人は、ずくしを知らないんだって。」、「イチジクを出したら、知らないって言われた。」という話題で盛り上がった。(「ずくし」はトモカク、「いちじく」は知ってると思うけどなぁ…?)
どうなんでしょう?
余談だが、デパートでは4つで880円もするけど、果物屋さんでは500円。しかし、朝市では1個50円!しっかり買い占めました。ホクホク(笑)
『吉野葛・盲目物語』(谷崎潤一郎 著)
「ずくしを作るには皮の厚い美濃柿に限る。それがまだ固く渋い時分に枝から椀いで(もいで)、成るべく風のあたらない処へ、箱か籠に入れておく。そうして十日程たてば、何の人工も加えないで自然に皮のなかが半流動体になり。外の柿だと、中身が水のように融けてしまって、美濃柿の如くねっとりしたものにならない。これを食うには半熟の卵を食うようにへたを抜き取って、その穴から匙ですくう法もあるが、矢張手はよごれても、器に受けて、皮を剥いでたべる方が美味である。」
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