通常の寿命式は非相対論的エネルギー保存則のみを考量した形になっています。(注0)
そうしてまたBHの特性は「質量が減少すればそれだけホーキング温度は上昇する」のです。
そうであれば通常は「ホーキング放射でBHの質量が減少すればするほど、ホーキング放射によるエネルギー放射量は増える」となりこれが「BHは最後に爆発して消え去る」という解釈につながっています。
しかしながら「個々のホーキング放射のエネルギー量はその時のホーキング温度の制約は受けますが、ランダムに決まる」という条件を通説に加えますと「最後にBHを消し去るのにちょうどぴったりのエネルギーの放射はほとんど起こらない」という事になります。(注1)
それでその時に「BHの質量を越えるエネルギーの放射は通常の寿命式では禁止されていない」のですから最後に起きるホーキング放射のエネルギーがBHの質量を越えていた場合はBHのエネルギーはマイナスに落ちる事になります。
「BHの質量がマイナスになる?どういうこと?」という声が聞こえます。
BHはホーキング放射でエネルギーをBHの外に出し、その結果、自分自身の質量を減らします。
これが通説の寿命式が前提としている考え方です。
それで「BHの質量はホーキング放射を出す事で質量ゼロを目指すのですが、最後に起きるホーキング放射のエネルギーがその時のBHの質量を越えていた場合は、BHの質量はゼロを飛び越えてマイナスに落ちる事になる」のです。
そうして「その様な事が起きる確率は?」といいますれば「通説の寿命式に従うならばほぼ100%そうなる」といえます。
これが通説の寿命式に「個々のホーキング放射のエネルギー量はその時のホーキング温度の制約は受けるが、ランダムに決まる」という条件を加えた結果、出てくる「とても魅力的に思える結論」です。(注2)
さてしかしながら残念な事にそこで通説が使っている非相対論的エネルギー保存則にかえて相対論的なエネルギー保存則を導入しますと「BHはホーキング放射によってはマイナスエネルギーにジャンプする事はできない」という結論に導かれます。(注3)
それは実は「相対論的なエネルギー保存則がホーキング放射が起こりうる条件を決めているから」なのです。
そうしてその事を通説では見落としていたのです。(注4)
この「相対論的なエネルギー保存則による制約」はBHの質量がプランクレベルに比較して大きい場合はほとんど問題になりません。
それはBHがホーキング放射放出の反動で動き回る速度がほとんど無視できるからですね。
しかしながらBHの質量がプランクスケールになりますとBHがホーキング放射の反動で動き回る事は実質的にホーキング放射を制約し始めます。
そうしてその制約によって「BHの質量はホーキング放射ではマイナスにならない」=「ホーキング放射によって到達できるBHの質量はゼロ以上である」となります。
「ああそれならやっぱり通説が言う様に、BHの最後は爆発して消え去る=BHの質量がゼロになるのでは?」という声が聞こえます。
でもそこで考えなくてはいけない事は「プランクスケールに到達したBHのホーキング温度は相当に高くなっている」という事です。
そうであればその状態で発生する仮想粒子のエネルギー、それは結局ホーキング放射のエネルギーになるのですが、それも相当に大きくなります。
そうしてBHの大きさが1プランク長を越えて小さくなればその状況は一層ひどくなります。
つまり「ほとんどの発生してくる仮想粒子のエネルギーレベルがその時のBHの質量をこえる=その状態でホーキング放射が起きるとBHの質量がマイナスに落ちる」のです。
そうして「BHの質量がマイナスに落ちる事は禁止されている」のですから、BHはその条件ではホーキング放射を出す事が出来なくなります。
しかしながら黒体放射のプランク則にしたがって「たまには小さなエネルギーレベルでの仮想粒子の対生成が起きる」のです。
それでその場合には「BHはほんの少しばかりのエネルギーのホーキング放射をだし、そうしてわずかに質量を減らす」のですが、まだBHの質量はプラスのままでのこります。
さてこのようにしてBHは「決して到達できない質量ゼロを目指して無限回のホーキング放射を繰り返す」というシナリオが以上の定性的な議論の結論として見えてきます。
「その状況は」といいますれば「BHの最後は爆発して消え去る」という姿とは異なります。
「消え去る」のではなく「いつまでも消えない線香花火のようなBHの最後の姿がそこにある」という事になります。(注5)
注0:実はエネルギーと質量は同じものである、という相対論の結論は通説の寿命式の導出の中で使われています。
しかしながらBHが動き回る事によるBHがもつ事になる相対論的な運動エネルギーについては考慮されてはいません。
従ってここでは「通説の寿命式は非相対論的である」という言い方をします。
注1:この条件は通説の寿命式では「BHは黒体放射する」という前提の中にかくれて見えなくなっています。
しかしながらホーキング放射は離散的に起こる現象ですから、個々のホーキング放射エネルギーはランダムに決まります。
注2:たとえば「ダークマター・ホーキングさんが考えたこと・12・マイナス質量のBHについて」: https://blog.goo.ne.jp/rokusanasukor/e/0d5281fe4047edb5db92314c13e5ab7d : https://archive.md/XdjFY :にあるような「従来の物理通説をこえたマイナス質量のBHの誕生」と言うような「とてもわくわくするようなシナリオ」が見えるのです。
ちなみに通説の寿命式、およびホーキング放射そのものの定式化の中からは「BHはホーキング放射ではマイナスエネルギーに落ち込まない」という規制条件はでてきません。
ホーキングが提示した通説ではどこにも「BHはホーキング放射ではマイナスエネルギーにジャンプできない」と禁止する物理的な条件はないのです。
そうしてマイナスエネルギーにジャンプしたBHはホライズンを持ちませんので「そうなって初めてこのBHのホーキング放射は止まる」というのが「通説の寿命式が言外に言っている内容」となります。
それに対して「実際に存在する黒体放射の場合」は「黒体が放射を出す事で黒体そのものの温度が下がります」から、「温度低下に従って自動的に黒体放射は止まる」のです。
しかしながら「BHの場合はホーキング放射を出す事でホーキング温度が上昇する」ので通常の黒体放射がもつ「自動的に放射が止まる機構」が働きません。
その為に通説に従った場合はBHは質量ゼロ点をこえて熱暴走し、質量がマイナスになって初めてホーキング放射が止まる事になるのです。
注3:そこまでの議論詳細は「ダークマター・ホーキングさんが考えたこと・26・BH(ブラックホール)は消滅可能なのか?(4)」: https://blog.goo.ne.jp/entangle1/e/8491f78a71dc2c1d125f7363c1e842c0 : http://archive.fo/yGpMa :を参照願います。
注4:・その4・ ホーキング放射のメカニズム : https://archive.md/QtHPd :で示しました様に「BHはホーキング放射を出す事で動き回る」のです。そうして通説の寿命式はこの事実を見落としています。
あるいはプランクスケール到達以降のBHの挙動は無視して「そこまでいったらBHは消えたと同じだ」と主張している事になります。
そうであれば通常の寿命式は「プランクスケール到達以降のBHの挙動を無視した近似式である」と言う事になります。
そうして通説の寿命式が禁止していなかったBHのマイナスエネルギーへのジャンプは「相対論的エネルギー保存則により禁止」となりますが、それは又通説の寿命式に反してBHの寿命を無限に伸ばす事にもなるのです。
注5:その姿は前の章で示した「ホライズン上空に1プランク長だけホーキング温度の計算地点を上げた場合の結論」と似ています。
そうして同じような結論=「BHはホーキング放射では消滅しない」に至るのですが、前提としている条件は異なっている事に注意が必要です。
追記:注意すべきはここでの議論は「1プランク長を越えて小さくなったBHには何ものも入れない=それ以降はこのBHはホーキング放射を出さない」という「当方が従来から主張している制約条件は外している」という点です。
その制約条件は「仮想粒子を含めて素粒子は有限の大きさを持つ」という前提に立ちます。
そうしてこの「素粒子は有限の大きさがある」という前提そのものの確からしさは「ホーキング放射は未だ確認されてはいないが確かに存在する」という確信よりも高い確信をもって業界では認められている内容です。
それに対して「BHのホライズン直径よりも大きな仮想粒子はBHの中には入れない」という前提は「なるほど、妥当な仮説の様に見えます」がそのレベルは「妥当に見える」という程度であって「業界で広く認められている」というものではありません。
それは一つの前提として「そのような仮説が想定できる」という程度のものです。
さてしかしながらエネルギー保存則の相対論版である「相対論的なエネルギー保存則」というものは今では「物理学そのものの基礎を構成している」と言えるものです。
それは上で述べた「ホーキング放射は存在する」とか「素粒子は有限の大きさを持つ」とかいう主張に対して物理学者が持つであろう確信よりもさらに基本的な確信になっています。
さてそれで「その基本的な法則である相対論的なエネルギー保存則によってホーキング放射が制約される」という状況は「発生してくる仮想粒子が点粒子であろうが有限の大きさをもつ粒子であろうが、そんな事には関係なく成立している事」になります。
つまりは「今の物理学に何の推定や仮定を加える事もなく」、その上で「もしホーキング放射という現象がホーキングがいう様なプロセスで発生するならば、その現象は相対論的なエネルギー保存則と運動量保存則の制約を受ける」という事になります。
そうしてその時に「BHはどこまでもホーキング放射によって小さくなれる」という通説の寿命式が主張する立場に立った場合でもそこから出てくる結論は「BHは質量がホーキング放射でゼロになって消滅する」と言う「従来から言われているもの」ではなく、「BHはホーキング放射では消滅しない」という結論になるのです。
それを端的に言い表したものが:「ブラックホール(BH)の消滅不可能定理」:です。
それで以上の話のポイントは「BHはホーキング放射では消滅しない」というこの結論は今の物理学のよって立つ基礎の上に何かの新しい未確定な前提を追加することなく「ホーキング放射が存在してもBHはホーキング放射では消える事は無い、というロジックになっている」という所にあります。
従ってその結論はホーキング放射の通説の結論に対立していますが、それを越えて成立している「ホーキング放射の基本的な結論である」とみなす事ができます。