おやままさおの部屋

阿蘇の大自然の中でゆっくりのんびりセカンドライフ

『腹鼓記』を読んでー

2009年10月23日 08時28分00秒 | 日記
昨日、井上ひさしの『腹鼓記』を読み終えた。感想は読んでいて楽しかったということ。娯楽小説とでもいったらいいのか、大人の童話といったらいいのかー。狸と狐の化かしあい、一人の女をめぐるあくどい官僚と狸との怨念の戦い。娯楽なのだが、流石にしっかりした時代考証を踏まえているし、発想がユニークで豊かである。そして、語彙の豊富さには感嘆させられる。
ただ一緒に、箒木蓬生の『三たびの海峡』という戦時中に日本に強制連行された朝鮮人の物語を読んでいるのだが(今日読み終えるだろう)、恐らく小説に描かれている戦争中の日本という国家が辿った他国侵略の実相は描写されたディテールにおいても真実であろう。読み進むうちに心を揺さぶられる。送り込まれた北九州の炭鉱で強圧的、暴力的で悪辣な労務管理を行った日本人に憤怒の感情が燃え滾る。強制連行され炭鉱に送り込まれた朝鮮人河時根と一緒になった日本人女性千鶴との悲恋に目に涙が滲む。重いのだ。虐げられ、人間の自尊心を徹底的に奪われ、いつ殺されるかわからない状況の下で、脱走を図る。そして、日本人労務管理の人間に見つかり、この男を殺してしまう。・・・吉川栄治文学新人賞を受賞していると後で知った。日本人が描いたこのテーマの小説では珍しいのではないか。これまで、李恢成、高史明、金時鐘、最近では何冊か読んでいる梁石日、金達寿など多く読んでいるが、久しぶりに良かった。日本人なので事前の調査には多くの時間がかかっただろうし、苦労しただろうと思う。

『腹鼓記』は珍しい題材で、こういう小説は初めてだった。でも時間が経ったら何か心に残るだろうか?!!