晴れ、12度、80%
母を老人施設に預けたのはちょうど3年前のことです。入所前の年末は、肺炎のため病院で年を越しました。一日3交代でヘルパーさんが自宅に来てくれていましたが、古い隙間だらけの大きな家に、自分では身の回りのことが出来ない母を住まわせるのには、もう限界がきていました。いえ、遅すぎたくらいかもしれません。肺炎で入院している母に届けたクリスマスプディングが最後で、以来作っていません。
昨年のクリスマスに、モモさんのご飯茶碗のために久しぶりに買ったイギリスのクリスマスプディング、今の時代にはもうマッチしなくなったような古い感じのケーキです。色合いだってダークな上に、その食感の重いこと。香港に入ってくるクリスマプディングも、年々小型化して店先に並ぶ量も減りました。
私がクリスマスプディングを焼き始めたのは30年ほど前からです。まずは、クリスマスの1年前からフルーツやナッツを漬け込むところから初まります。 レーズン、プラム、アプリコット、くるみやアーモンド、生のリンゴを刻んで、シナモン、オールスパイス、ナツメグなどのスパイスとラム酒やブランディー、赤ワインんで漬け込みます。初めの3ヶ月は、1週間おきに中身をかき混ぜますが、後は、そのまま常温で保存します。クリスマスプディングを蒸し焼きにするのは、決まってクリスマスのひと月前です。この手の、重いケーキは置けば置く程、味が馴染み香が良くなります。11月の24日に数ヶ月蓋も取らないでいた瓶を開けると、それはそれはいい香がします。昔のこのフルーツのレシピには、牛のケネン脂が使われていたそうですが、私は使ったことがありません。2時間近くかけてオーブンで蒸し焼きにします。焼き上がっても、ずっしりと手応えがあるクリスマスプディングです。
このケーキを喜んで食べるのは、母と私だけでした。昨年の買ったクリスマスプディングですら、主人は小さな一切れしか食べません。クリスマスプディング作りを止めたのは、食べる人が少ないからばかりではありませんでした。もっと大きな理由があるのです。漬け込んだフルーツは、香港の高温多湿の中でも、5年近くも持ちます。永く置けばそれだけ、まろやかなフルーツが出来ます。5年もの、3年もの、作り立て、台所の流しの下にはずらりと並んでいました。
母の入所とともに、実家の片付けが始まりました。料理も、掃除もほとんどしない母ですが、庭の梅をシッロップ漬けや梅酒にしていました。例の赤い蓋の瓶が、30個近くもありました。一緒に片付けを手伝ってくれていた主人は、中身も確かめないままゴミの方へと運びます。確かに、あってももう使わない保存食です。重たい瓶を玄関先へと運ぶ主人を見ながら、私が逝ってしまった後も、同じように私が作った物たちは始末されるのだと、改めて気が付いたのです。その後、香港に戻って来て私が一番にしたのは、このクリスマスプディングのフルーツ漬けを自分の手で捨ることでした。
それがまた、どうした私の気持ちの変化でしょうか?自分でもよく解りません。私が急に逝った後、手書きのプディングのレシピを見ながら作り続けてくれる人もいません。若い時とは違ってそんなことも解った上で、またプディング用の果物を漬け込みました。
今まで焼いて来た回数以上焼くことは、もう無理です。それでも今年のクリスマス、私のクリスマスプディングが食卓に戻ってきます。
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