晴、17度、84%
カズオイシグロの新作「クララとお日様」は世界各国に同じ日に刊行されました。アメリカから送られてくる「クララとお日様」は日本の発売日より10日ほど経って我が家に着きました。折良く、暖かな季節に向かいます。
すでにあちこちで書評が出ている「クララとお日様」です。知能ばかりか感情も併せ持つ人型ロボットを子供の友達にするという近未来の話です。そのロボット「クララ」が主人公、太陽光がエネルギー源の「クララ」は太陽を崇拝しています。ジョージという女の子の元で暮らす「クララ」は太陽の力を借りてジョージに元気を取り戻します。複雑な人間感情に悩みながらも一途な「クララ」はロボットとは思えない存在です。
カズオイシグロの作品は時に分かりづらいものがありました。英語自体の難解さに加えて物語のバックボーンが掴み難かったりと悪戦する本もありました。この「クララとお日様」は処女作「遠い山なみの光」のような穏やかな読みやすい本でした。暗く閉ざされた空間をイメージする作品と違って、「クララとお日様」には陽の光が満ちています。私には読み易い本でした。
暖かくなり始めたので、庭の真ん中に椅子を持ち出して読み進めました。次第に花も咲き始めます。私も「クララ」同様お日様に力をもらいながらの読書でした。ところが庭に出ていると、空を見上げては季節の喜びを噛み締めます。咲き始めた花をぼーっと眺めることもありました。本が一向に進みません。数日前、アメリカのAmazonから次に頼んでおいた本が送り出されたと連絡を受けました。慌てた私は本を読む場所をいつものベットの上に移します。ベットでごろりと横になり読み始めると、ページが進みます。次の本の到着前に読み終えました。
読み終えて一抹の喪失感が胸をよぎります。私が子供の頃いつも一緒だったぬいぐるみはどうなったのだろう?人は成長すると顧みることなく置き忘れて行くものが出て来ます。「クララ」の最後の姿に遠い昔、どこかに置き去ったぬいぐるみの姿が重なりました。