カップ&ボールのカップ中心にいろいろ紹介

自分の持っているマジックの道具をカップを中心に紹介。

バケト3世(Baqet III)の第15墳墓の壁画について

2022-01-29 11:17:00 | 日記

 カップ&ボールの演技では、「今から行うマジックは最も古くから演じられているもので」みたいな話をしながら始める方も多いのではないかと思います。さらに「古代エジプトでも行われてたようでピラミッドの壁画にもその様子が描かれていますよ」という話もする方がいらっしゃるのではないかと思います(居なかったらすいません)。

 このカップ&ボールをしている古代エジプトの壁画としてよく出てくるのが、エジプト中部ベニ・ハッサン(Beni Hasan)村にあるバケト3(Baqet III)の第15墳墓の壁画の絵の線画であるこの絵です。


 DPグループさんのPM カップ&ボールにはこの絵が刻まれています。PM カップ用 ポーチにも使われています。商品説明では「人類最古に演じられたカップとボールのマジックと言われている、エジプトの壁画デザインが彫り込まれています。」とさもカップ&ボールをしている絵という説明でも、カップを取り出したときの雰囲気づくりや興味を持ってもらえる演出にはとてもよい気もします。

PM カップ&ボール(銅)

M8711 PM カップ&ボール(銅) マジックエクスプレス オンライン

PM カップ用 ポーチ

L8710 PM カップ用 ポーチ マジックエクスプレス オンライン

 確かに、私の家にあるいくつかの本でもこの絵が使われています。思いつく本を開いて写真を撮ってみました。1冊は絵はないですが、記述がありました。





 まず、この中で最も古いのは世界の魔術(M.クリストファー著・梅田晴夫訳)(1975年昭和50年)です。

 「北米大陸に最初の魔術師が出現するより5000年以上も以前に、エジプトで既に奇術師が不思議なわざを披露していたのである。下に掲げた挿絵は、エジプト学者の説によればごく古い時代の『カップ・アンド・ボール』(お椀と玉)の図だが、これは紀元前2500年ごろ、ベニ・ハッサンの墳墓の壁画に描かれたものである」

と書かれています。このころはカップ&ボールの絵だとされてたんですね。オリジナルは「Panorama of Magic by Milbourne Christopher1962年)」でさらに10年ほど古く昭和30年代です。確認していませんが、訳本なのでこの本にそのように書かれていたと考えられます。ちなみにこの世界の魔術という本はとても資料が豊富で見ているだけで楽しい本です。当時2万円で500部限定というとても価値のある本として出たと思いますし、個人的にはとても価値があると思っていましたが、今アマゾンで見ると7000円とかで販売されてます他のインターネット上の古本屋さんでもいくつか出ています。こんなに売られてたっけ?と少し驚きました。インターネットの発達でで古本を入手し易くなったのですね。あと、手放す人が多くなったということでしょうか(もともと親が所有していて子供がそれを売るとか)なんかちょっと残念な気がしましたが、デジタル化したらさらに1000円とかで販売されるんでしょうねまあたくさんの人が触れることが出来るのは良い事だと思います。

 次は昭和63年発行の「大魔術の歴史(高木重朗著)」です。挿絵には「世界最古の奇術の絵―ベニ・ハッサンの洞窟に描かれたこの壁画は「カップと玉」とおぼしい」と書かれています。ちょっと長いですが、文書を引用します。

「『カップと玉』は記述の発祥とともに行われたと思われる。中部エジプトにベニ・ハッサンという村がある。これはナイル川東岸の古都として有名なヘルモポリスの近くにある村であり、ここにエジプト12王朝以来の墳墓がある。これは石の洞窟になっている。この洞窟に壁画が描かれている。これはその当時の生活を描いたもので、その中の一つに、「カップと玉」の奇術を行っているのだと思われる壁画がある。これは紀元前2500年ごろのものと推定されており、二人の男がカップを伏せているところを描いている。これが世界最古の奇術の絵である。この絵にたいし、「カップと玉」ではないという学者もあるが、大部分の学者は奇術かゲームのようなものと推定している。」

 ここでも、カップ&ボールである可能性が高いと書かれています。ただ、ゲームのようなものという表現もあります。

 次はクロースアップ・マジック(松田道弘著)です。私が持っているのは2005年に復刊ドットコムから復刊された本ですが原本は1974年に金沢文庫より刊行された本(その後、筑摩書房から『即席(クロースアップ)マジック入門』として発売)です。1974年なので昭和49年発刊ですね。ここでは以下のように書かれています。

「カップ・アンド・ボールが,世界で一番古い奇術のひとつであることは,まず間違いありません。古代エジプトの壁画に,2人の人物が,おわんのような容器を手にして向かいあっている図があります。この絵はカップと玉の奇術をやっているところだ,という人もありますが,これはちょっとあてになりません」

 この記述では,そういう絵はあるけど『これはちょっとあてになりません』と書いてありますので、カップ&ボールの絵であるという事にやや否定的な意見ですね。ただ、何故あてにならないのか?までは書かれていません。

 次は同じく松田道弘氏著のトリックスター列伝です。2008年の発刊です。ただし、これは1989年から20年続いた、季刊マジック雑誌「ザ・マジック(東京堂出版)」に「マジックの歴史」のタイトル連載していた記事をまとめたものに一部内容を追加して刊行された本です。今から紹介する文書は本の最初のプロローグにあるのですが、おそらくザ・マジックに連載された内容では無いと思います。私の手元にあるザ・マジックの20号まではざっと見たのですがありませんでした(見逃しているかもしれませんが)。もし、この本の発刊に合わせて書かれた文であれば上記のクロースアップ・マジックの刊行から約30年後に書かれた文章となります。

「紀元前2500年頃と推定される絵自部とのベニハッサンの洞窟に、ふたりの男が向かいあって、お椀のような容器を手にしているところが描かれています(図)。これが「カップと玉」の奇術を演じているところだという研究家もいましたが、いまではパンのようなものを焼いているところだろうといわれています。」

 『パンのようなものを焼いているところ』という表現が出てきました。誰の説か不明ですが、これまで全く書かれていなかった説です(もちろん、どこかで書かれていたから松田氏も書かれたのだと思いますが)。前回の本から約30年経って同じ絵に新しい説が出てくるのが面白いですね。

 最後は先日も少し紹介させて頂いたDeAGOSTINI (デアゴスティーニ)の隔週刊 ザ・マジックの創刊号です。2019年発行です。この雑誌にはときどき(頻度は低いのですが)マジックの歴史に関する記事が掲載されます。カラーでとてもきれいですし、個人的には楽しみにしているのですが、ちょっと後半は頻度が少なくなってきたような気がします残念創刊号ではマジックの始まりとして、やはりこの絵が掲載されています。この最新のマジック雑誌にはこの絵は以下のように書かれています。

「上の図を見て頂きたい。長い間、古典的なマジック「カップ・アンド・ボール(カップと玉)」を演じている様子であると、まことしなやかに説明されてきた壁画である。エジプトのベニ・ハッサン村、バケト3世の第15墳墓に描かれたこの壁画は、現在では何らかのゲームをしているところ、あるいはパンを焼いているところという説が有力視されている」

 というわけで、『まことしやか』(まことではないのにいかにもまことに見えるさま)と書かれてますように、カップ&ボール説は完全に否定した記述となっています。上述の松田氏の本と同様パンを焼いているところという説が引き継がれてますね。ゲームというのは高木氏の初めの本から書かれている説です。

 今回、ブログで何故この絵の話を書こうと思ったかというと、数日前、偶然にも5年以上前(2015年)に書かれたこの絵に関するブログを見つけたからです。それが下記です。非常に説得力のある書き方で(しかも他の記事をみるとかなり専門的な方だとわかる)、今のところ私の中では信頼できる情報と考えています。

 このブログでは、絵に書かれたヒエログリフの内容と前後の絵から若者が行う、何かカップのようなものを積み上げるゲームでは無いかという事です。パンを焼いているというのは、ほぼ無いだろうとのことでした。

 そうか!何故今までこの文字を読んで、こう書いてあるからこれは〇〇をしているところだという説明が無かったんだろうと思いました。かなり進んだ気がしますただ、カップを積み上げるゲームって楽しい??というのがあるので、完全解答には至ってないかもしれませんちなみに、カップ&ボールのマジックでもカップを積み上げてその中をボールが貫通させる手順がありますが、昔の絵を見ているとあんまり積み上げている絵が無いですし、カップも積み上げにくそうなカップも多いです。見ている人からすると最後の大きなものが出てくるシーンが印象的なのでそこが絵に描かれていると思うのですが、いわゆる悟空の玉のような手順は昔から行われていたのでしょうかと思ったりします。あと、このブログでは資料がいろいろ引用されていてネットのおかげで専門家でもない我々がその資料にアクセスできるということが時代が進んだなぁと感じました。実際このエジプトの壁画ももう少ししたら、立体画像とかで提供され、家にあるVRゴールグルなどを装着するとさもその壁画の前に立っていて本物を見ているような経験ができるのではないかと考えます。是非見てみたい...

 カップ&ボールの「ウリ」の一つは世界最古のマジック(の1つ)である事だと思います。ですので、個人的には、観客のワクワク感をアップさせるためにこの絵を使って歴史的な話をするのはありだと思っています。

 最後に今回の記事には「オチ」があって、この文書を書いた後、再度少しインターネットを見ていたら、なんと石田氏によるこの壁画の歴史的説明ページがありました!!確か前に見たことがあるような気もします…私の上で書いたものは意味なかったのでは...という事なのですが上記ブログを紹介したくて書き始めたのでまあいいかと慰める事にしました。石田氏の解説は私のとはレベルの違う内容解説ですので是非興味がある方はみてください。

奇術史研究コミュニティ:エジプトの壁画とカップ・アンド・ボール



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2 コメント

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Unknown (kokugoyakagyou-re)
2022-01-29 16:08:57
コメント、失礼します。
黒田文彦氏もこの壁画について考察されていますよね。

モテまじっく倶楽部さんの『あんた、何カップ?』の紹介文です。

リンクはgooブログの仕様か、貼れませんでした。
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Unknown (mahounokakera)
2022-01-29 22:39:24
@kokugoyakagyou-re いつもコメントありがとうございます!そういえばそうでした!歴史の話は載っててみた記憶がありましたが、絵についても詳しく氏なりの解釈してますね。また追加させて頂きます♪ナイフ思ったより早く入荷されてしかもたまたま10%ポイント還元でしたね!レビューまた楽しみにしてます♪
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