前回はRings-N-Things Magicから出ているPete Biro's Ramsay Cups and Ballsを紹介しましたが、今回はJohn Ramsayのカップ&ボールについてもう少し広い範囲で書きたいと思います。
John Ramsay(1877-1962)はイギリス(スコットランド)のアマチュア・マジシャンでクロースアップの伝説的な名人です。1955年FISMクロースアップ(the micromagic category)で第1位を受賞していますが、なんとこの時70歳を超えてます…恐らく最高齢でしょう。ミスディレクションの神様で"Master of Misdirection"という称号がついていたようです。"magician's magician, who loved to trick fellow conjurers"と言われるようにマジシャンをも騙す。それを楽しむ人だったようです。
マジェイアさんのページです。
3つほど有名な言葉が紹介されています
「もし、観客にある部分を見てもらいたいのなら、まずあなたがそこを見なさい。」
「もし、観客にあなたを見てもらいたいのなら、あなたが観客を見なさい。」
「私は一人で仕事をしています。しかし、私には見えないアシスタントがいるのです。彼女の名前はミス・ディレクションです」
また、「奇術の詩の子供たち」のページでも紹介されています(素晴らしいコンテンツのページでしたが2015年以降止まってしまっており、残念です…)
ミスディレクション:観客の注意を逸らすマジックの基本テクニック | 種明かしだけじゃないマジックの紹介解説◆奇術の詩の子供たち◆
ジョン・ラムゼイと言えば「シリンダー・アンド・コイン」が有名で、未だに関連商品が毎年のように出ている気がします(笑)。最近ではジョシュア・ジェイ氏の商品が記憶に新しいです。私はコインマジックをほとんどしない(できない?)ので、殆ど知識が無いのですが、下記の麦谷さんの記事は興味深く拝見しました。
というわけで、ジョン・ラムゼイ氏の代表作と言えば「シリンダー・アンド・コイン」なのですが、カップ&ボールも代表作としてあります。ツーカップのルティーンとワンカップのルティーンがあります。ツーカップルーティーンを行ったマジシャンとしてはかなり初期(はじめて??)かもしれません。
私は正直ジョン・ラムゼイ氏に関してあまり知りませんでした。私がジョン・ラムゼイ氏のカップ&ボールを知ったのはVictor Farelli氏が書いた「JHON RAMSEY'S ROUTINE WITH CUPS AND BALLS」という本を手に入れてからです。たまたまebayで入手したのですが、1948年のFIRST DE LUXE EDITIONで、ラムゼイ氏のサインもありますし、ちょっと貴重かもしれないと思ってます(笑)。
本の初めには上記でかきました名言が印刷されています
「I work alone, apparently, but I have an invisible assistant - Miss Direction. 」
この本には6つのフェーズからなるラムゼイ氏のカップ&ボールの手順が写真と共に約40ページに渡りかなり詳細に書かれています。それも凄いのですが、驚いたのはイントロダクションで書かれているカップ&ボールの歴史です。20ページに渡り、「各時代にどのような文献でどのようなことが書かれていたか」が書かれており、これほど詳しく書かれている文献は初めて見ました。
ちなみにこの本は、Lybrary.comで15ドルで電子ブックを得ることが出来ますのでご興味ある方は購入されるのも良いかと思います。
John Ramsay's Routine with Cups and Balls by Victor Farelli
本を見てラムゼイ氏のおおよそ手順は理解したものの、やはり実際の演技が見たくなりますよね…そこでRamsayの弟子であるAndrew GallowayがRamsayの有名なマジックを実演、解説しているDVD「Magic of John Ramsay」を購入しました。以前、野島さんのお店でセールしていましたが、既に売り切れでしたので、
ペンギンマジックで購入しました。
2カップルーティンはVol.1で、1カップルーティンはVol.2で実演解説されています。
DVDの2カップルーティンは基本的に本と同じですが、最後の紙テープの出現フェーズの実演・解説はありませんでした。確かに本でもこのフェーズは後で追加されたと書かれていましたが、本が出た1948年には解説されていますので、是非ビデオでもやって欲しかったです(T_T)。
カップも本にある方なアイスクリームのカップにアルミの塗装がしてある感じのものです。本によるとサイズは高さが5.7cm、口径6.0cm、トップの径.5.4cmで、窪みが0.95cmほどです。多分ビデオもそのくらいの小さめのものだと思います。ボールは完全なボールではなくコルクを切った多面体でおおよその直径は16㎜と小さいです。
手順を詳しく書いてしまうと、初めて見たときの驚きを小さくしてしまう可能性があるので、書けませんが、やはりバーノンの手順に慣れている自分としては、全然違うので新鮮でした。かといってこの手順が当時の標準的な手順かというとそうでもなく、やはりラムゼイ氏特有の良さが入っているようです。本でVictor Farelliは下記のように書いています。
Within the course of the last thirty odd years, I have witnessed many expert performances of the Cups and Balls, but John Ramsay's style of presentation, as well as his actual methods, is different.
The average conjurer keeps manipulating the cups with hardly any pause, or break, between the various stages of the routine: his hands never leave them for more than a few seconds at a time, and, even when he is explaining what is taking place, his eyes are seldom raised from the table.
たしかに、ラムゼイ氏特有の、そこがあやしい!と思わせて違うというシーケンスや大ボールのロード方法とタイミングなどは面白かったです。また、ウォンドってやはり、自然に見せるいいツールだなぁと改めて感じました。
ただ少しネガティブなことを言うと、Andrew Gallowayの演技の撮影の仕方(観客がいない、固定カメラからの撮影、そもそも演技もやや淡々とした感じ)などからビデオでは臨場感があまりありません。実際に見たほうがインパクトあるだろうなと思いました。大ボールがちょっと小さいので、マニピュレーションやロードはやり易いと思うのですが、え!そんなものが入っていた??というサイズ感はないかなと思いました。
DVDのVol.2ではワンカップルティーンが収録されています。ビデオの中ではヒンズーカップを使っています。恐らく、ラムゼイ氏のオリジナルもそうなのでしょう。この手順については「奇術の詩の子供たち」のサイトに動画がありましたので、引用させて頂きます。
2カップに比べるとシンプルですね。お?と思うところがあるかもしれません。今見ると割と普通に見えるかもしれませんが、当時にしてはワンカップというのは珍しかったのかもしれません(勉強不足ですいません)
今回、このルティーンを学び、時代を少し感じました。この本が出版されたのが1948年と第2次世界大戦終了直後です。それまでのカップ&ボールとこのラムゼイ氏のカップ&ボールは大きく異なったのかもしれませんね。さらにこれからポールフォックスカップが登場し、バーノンをはじめとする多くのマジシャンが様々な手順を発表して、20世紀が終わりました。他のマジックもそうですが、最も歴史があるマジックと言われるカップ&ボールも19世紀と20世紀後半では全然違う感じになったのではないでしょうか。次のターニングポイントはいつなんでしょうね…
最後に松田道弘氏の「クロースアップ・マジック」という本からの部分的抜粋です。
「20世紀になると、クロースアップ・マジックの研究がさかんになって、このセルバントも取っ払ってしまおう、というこころみがはじめられました。セルバントの廃止と共に、カップアンドボールは、あらゆる奇術家によって研究され、発展してきました。中でもレオ・ホロウィッツ、トム・オズボーン、ジョン・ラムゼイ、ジェイコブ・ディリイ、エディ・ジョゼフ、ダイ・バーノン、チャーリー・ミラーらが独自の手順を発表しています。」
「カップ・アンド・ボールも、いろんな変種が研究されるようになりました。たとえば3個のカップのかわりに、2個のカップしか使わない手順とか、さらに1個減らしてワン・カップ・ルーティンなどというのさえあらわれました。2個のカップを使った手順では、ジョン・ラムゼイのこりにこった演出が有名です。」
このラムゼイの手順は歴史的作品の1つという感じですね。