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Private Patient  

2009-02-10 04:56:29 | 
The Private Patient (Random House Large Print (Cloth/Paper))

Random House Large Print

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夏に買うと宣言して、秋に無事、ペーパーバック版を手に入れました。そして、読み終わってからだいぶんたってしまいました。まともなレビューを書こうと思ったせいで、先延ばしにしてしまったのです。

このままではまったく書かない、ってこともありうるので、中途半端なレビューを書いてしまいます。

届いたのは写真のもので大きい文字のもの。large printの文字を見ずに注文してしまったんですね。でも、ややかさばることをのぞけば軽いし、持ち歩きは楽勝でした。

この作品、予感はあったのですが、作者はどうも最後の作品として書いた雰囲気があります。なんと、大団円のハッピーエンドをやっているんです!。


ダルグリッシュとエマが結婚するのみならず、ケイトと、エマの友人たち、そして事件関係者の中からも一組とたくさんカップルが誕生します。子供が生まれる夫婦もいます。


10年ほど前のジェイムズでは考えられないことです。現実的というか、予定調和を尊ぶ作家ではありませんでした。犯人がつかまろうが、事件が解決しようが、暴力が引き起こした死がまわりをじわじわとむしばんでいく課程を丹念に描く作家だったのはまちがいありません。「死の味」でケイトが味わう孤独感は代表的なものでしょう。

死の味〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
P.D. ジェイムズ
早川書房

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もっとも同じ残酷な現実をつきつめたとしても、エリザベス・ジョージほどは手厳しくなくて、悪が勝利をおさめてしまう「皮膚の下の頭蓋骨」でさえも、善のささやかな勝利みたいな感覚がラストには漂います。

皮膚の下の頭蓋骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 129‐2))
P・D・ジェイムズ
早川書房

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それがよくも悪くも変わってきたのはエマが登場する「神学校の死」あたりでしょうか。ジェイムズが好きというジェーン・オースティンのようなハッピーエンドを最後にもってきたい、とそのころから計画をしていたにちがいありません。なにせ、ダルグリッシュの相手がお気に入りの小説のタイトルのヒロインの名ですからね。性格はよりジェイムズ好みにちがいない知的な美女ですが。

神学校の死 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
P.D. ジェイムズ
早川書房

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そのエマとのロマンスが殺人展示室、灯台の伏線となっていました。

殺人展示室 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
P.D. ジェイムズ
早川書房

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このシリーズの伏線の一つの最終課程として描かれたのがPrivate Patientといえるでしょう。

事件そのものはわりあい明快です。事件記者だったローダ・グラドウィンがドーセットにある貴族の邸宅を改造した富裕者向けの整形医院で傷の手術を受けた直後に殺害されます。当然、この整形医院関係者が疑われます。

ダルグリッシュのチームがこの事件に巻き込まれたのは、この整形医院に入院していた別の患者が権力者の家族だったためでした。

whoダニットの事件としてみるなら、それほどたいしたトリックを使っているわけではなく、すぐに真犯人の見当はつくでしょう。もともと疑いがかかるのは2人のみ、そのうち明らかに怪しいのは一人だけですから。

でも、全体としてはなかなかの力作です。ジェイムズに駄作なし、という評判は今回も守られることでしょう。捜査の進み方、登場人物に対する丹念な書き込みは健在で、お約束のアクションシーンも手を変えてみせてくれます。第一の犯罪のじわじわとしたこわさや、ショッキングな第二の犯罪などの描写もお見事ですし、かつての魔女の火あぶりのエピソードが、最後にきいてくるところなど、あいかわらずの構成力です。一度読み始めたら、読むのを止めるのがたいへん難しい作品でした。

筆力の衰えはかんじません。

が、書き続けてくれるかというと...作者の最近の写真など見てますと、目に力がかんじられるものの、全体的にさすがに高齢者だということを感じます。そしてこれだけ、これまでの暗雲をできるかぎり取り払うぞ、ってかんじのラストを書いてしまうとねえ。

今回が最後かも、なんて予感は外れるといいんですけど!近い将来のダルグリッシュのチームの解散の予想は作中何度か語られるのですが、実際には描かれませんでしたから、まだ書き続ける意思は若干なりともあるのではないかという気もするのですが...

翻訳がでるのは2年ほど先でしょうかね。描写力のわりにはたいへん読みやすい英語とはいえ、それなりにボリュームもありますし。

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